2009-02-08

〔週俳1月の俳句を読む〕中山宙虫 それでも冷たい風は吹く

〔週俳1月の俳句を読む〕
中山宙虫
それでも冷たい風は吹く


むつかしきかほは犬にも竜の玉   広渡敬雄

僕の田舎のたんぼが広くなった。
とっても広くなった。
二年前までは、日本の棚田百選とまではいかないけれど。
棚田と言われる部類のたんぼだったのだ。
ほ場整備という農業政策の一環できれいに区画割されて道路までまっすぐに通った。
すべてのたんぼに車で行けるようになったのだ。
もうそこに僕らの少年時代の田園風景はなくなったのだ。
上のほうの棚田から駆け下りる少年たち。
小さい田は、五歩も駆ければ下へ落ちるのだ。
そんな小さなたんぼで僕らはちゃんばらごっこをした。
隠密剣士だったり、鞍馬天狗だったり・・・・。
時には戦争ごっこだったり・・・・。
コンバットだったりするのだ。
その戦いの武器のひとつが鉄砲だった。
紙鉄砲や杉の実鉄砲などを自分たちで作っていた。
しかし、僕らが使っていたのは、当時たんぼの法に有り余るほど実っていた「竜の玉」。
笹竹などで作った鉄砲に竜の玉を詰めて空気圧で押し出す。
ぽん!とここちいい音をたてて敵に立ち向かうのだ。
こういった遊びには必ず年上のにいちゃんがいた。
僕の同級生のにいちゃんもそのひとり。
僕は長男だったせいでこういった遊びは同級生から教わっていた。
遊びを知っている。
鉄砲を作ることができる。
それだけで僕にはスーパーマンだった。
作り方を習っても、ひとりになるとうまくいかない。
竹筒が大きすぎたり、逆に細すぎたり。
不器用な自分がうらめしかった。
いつのまにか自虐的な気分になっていく。
「お前らは囲まれている。両手をあげて出て来い!」
刑事ごっこで犯人役の僕は、たんぼの藁塚の裏から両手をあげて出て行く。
竜の玉がつまった竹鉄砲が僕の額を狙っている。
犬にも似た気分だった。
棚田の下のほうから上へ寒風が吹き上がってくる。
そんな遊びも中学校へ上がると同時にやることもなくなった。
みんなばらばらになって。
それでも、冬になると鎌やナイフでこっそり竹鉄砲を作っていた。
いつかもっとうまく作りたい。
そう思いながら。
社会人になって、田舎を離れていった僕。
30代になって、自分の子供に竹鉄砲を作ってやった。
そして、竜の玉をさがす。
見つからない・・・・。
どの田の法にもあったはずだが。
法がこわれたりして、随分整理されていたり、休耕田になって萱が伸び放題だったり。
竜の玉はいつしか僕らが駆け回った棚田から姿を消していたのだ。
そして、今・・・・。
広くなったたんぼ。
もうそこで竜の玉を見ることもない。
そして、その広いたんぼを駆け回る少年もいない。
それでも谷からの冷たい風は吹く。
ふと思い出した。
「竜の玉」という名前は俳句を始めて知った名前。
あの頃は、なんて呼んでいたんだろう。
新聞紙の玉の鉄砲は「紙玉鉄砲」。
杉の実の鉄砲は「杉鉄砲」。
竜の玉は。
そうだ。
「猫のきんきん鉄砲」。
そう呼んでいた。
そう、僕らは竜の玉を「猫のきんたま」と呼んでいた。
確かにその呼び名は的を得ている。
僕らはにいちゃんからその呼び名を習ったわけだが。
今でも子供たちはそう呼んでいるのだろうか。




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