〔週俳1月の俳句を読む〕
上田信治
息をすいこむような、歌のような
新年の句は、他の季節の句以上に、季語と他の部分の関係がすべてであるような気がします。
かちかちと火点す音の淑気かな 齋藤朝比古
石鹸に牛の絵のある初湯かな 米男
新年のめでたさと、無関係かつささやかな景が、安定感のある文体のなかで、なめらかに重ねられている。
ショッキング・ピンクあるいは初御空 山田露結
めでたさと不穏さが、左右から押しあって、釣り合っている。
獅子舞のあとの塵浮く日差しかな 村上鞆彦
普通にめでたいようでいて、不穏な気配がするのは、獅子舞が眼前にもう無いから。
人類に空爆のある雑煮かな 関 悦史
悲劇と正月が釣り合って「書けて」しまう、という、ささやかな痛み。
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校門に棕櫚高くあり冬休 興梠 隆
「冬休」の用のない学校に、用のない「棕櫚」がばかばかしく高い。
全てのことばが緊密にむすびつき、無駄なく働いていて、ほぼ何も言わず(情緒的なもの価値的なもの抜きに)景だけを提示している。好きだなあ。
フレームに棘百万を育たしめ
熊の皮畳まれ積まれ立方体
水門の上に部屋ある四温かな
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東京は西に山なす新酒かな 広渡敬雄
みづならは綿虫の来る淋しい木
山なりに雲の流るる大晦日
ゆったりとした呼吸。たとえば、上五の「は」のあとには間があって、そこに息をすいこむような、歌のような、詠嘆がある。
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なにも買はずに出てくれば冬の虹 鈴木茂雄
山笑ふ日本武尊かな 櫛部天思
除夜の鐘屋根屋根屋根に豚の屋根に 二輪 通
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2009-02-08
〔週俳1月の俳句を読む〕上田信治 息を吸い込むような、歌のような
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