〔週俳3月の俳句を読む〕
江渡華子
あ、風が近づく
初蝶にぶつかりさうに歩きけり 高浦銘子
個人的には蝶は嫌いだ。直線という言葉はきっと奴等の辞書にはなく、ひらひらと、不安定な動きに、来るなら来い。行くなら行け。とよく思う。
きっと実際は、初蝶からぶつかるような光景だったのだろう。行き先のわからない不安定な生き物が自分の周りをひらひらしていても、あまり気にしない長閑な散歩。
人間は蝶にあたっても痛くはないけど、蝶はきっと人間にぶつかったら痛いだろうな。そんなことを思いながら、結局はぶつかることもなく、散歩は続く。
おぼろ夜のおほかみの仔は乳を呑み
おぼろ夜におほかみがいるだけで美しくてずるいと思う。
あつまりてすわりて花を待つこころ
今年は咲き始めから満開までに、やけに長くかかった。
咲き始めた週の週末に花見の予定をいれても、いまいち花の状態はよろしくない。
ちょっと早すぎたね。とみんなで苦笑しながら、もう一回集まって飲める口実ができるからいいやん。とも笑う。
ただ、下五の「こころ」は別の言葉にできたのではないだろうか。いまいち最終的に作者が何を言いたかったのか、つかめずにいる。
青柳向う岸より揺れはじむ 青木空知
あ、風が近づく。と知らせてくれるのは、いつも木な気がする。向こう岸にみえる青々とした柳が揺れる。そしてこちらの岸の柳が上より揺れて、一気に自分も風に襲われる。
黒々とした髪が柳に負けないくらい揺れて、定位置に戻る。柳はまだ揺れている。
風がやんでから、ふと風が青い匂いをしていたな。と思う。こちらの柳より、向こうの柳の方がより青そうだから、きっと向こうの柳の匂いだ。と満足げに髪を撫でた。
うつくしき順に白鳥帰りけり 大島雄作
灰色の象の足踏み納税期
そんなの思い違いだろう。と一瞬馬鹿にする。
しかし、確かに人間でも綺麗な人は最後まで参加することは少ない気がする。
最後まで残らなきゃもったいない気がする私はいつになってもスマートに帰られない。
灰色の象と一緒に地団駄する。
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2009-04-12
〔週俳3月の俳句を読む〕江渡華子 あ、風が近づく
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