2009-04-12

〔週俳3月の俳句を読む〕菊田一平 クリスピーサンド

〔週俳3月の俳句を読む〕
菊田一平
クリスピーサンド(パンナコッタ&ラズベリー)


猫髭さんの「十句の封印による反祝婚歌」を初めて読んだときの印象は強烈だった。詩と俳句のコラボの形もさることながら、ここ何年も句座をともにしている彼にこんな素敵な「猫髭ワールド」があるなんて全く知らなかったからだ。

例えていえば、いつも馬鹿言って一緒に飲んだくれていた同僚が、ある日ある時、社長の息子だって知ったときのような……ちょっと違うな。もっと具体的にいうと、そう、亡くなった攝津幸彦との出会いがまさにそんな感じだった。入社した出版社の広告部に配属された30年前、担当した少年マンガ誌に広告をお願いしている広告会社のひとつに攝津さんがいた。俳句を始めるようになって、広告原稿のやり取りをしながら冗談をいいあっていた攝津さんが、「散るは美し明日は三越」の攝津幸彦と知って愕然とした。 

詩と俳句のコラボといえば即座に辻征夫の「俳諧辻詩集」が浮かんでくる。

   漣

  さざなみや目刺のはらの皺の数
  (テーブルに肘をついて
  海を見ていた
  海には魚がいて
  魚の中にはさざなみがあり
  さざなみははらわたもほろ苦くておいしい

  司厨長
  出港の前に
  もう一皿さざなみをください)
                 辻征夫詩集成「詩の森へ」(書肆山田刊)より

辻征夫の「俳諧辻詩集」はことばが具体的でわかりやすく、詩に不案内のわたしでも理解できる。ところが「十句の封印による反祝婚歌」はとてもことばが難解なことにくわえ、独特のことばの飛躍が読み手にイメージを結びがたくさせている。

「十句の封印による反祝婚歌」は、エヴァという名前の女性への呼びかけになっている。

エヴァは「決して多いとはいへない仲間」たちが「ひたすら動物の悲哀と跳梁を深めるばかり」で、だれひとり思いをいってくれないものだから、本心とは「ほど遠い」「(エヴァとエヴァの)優しさを拒むことのできるひと」のもとに「悔恨を知らない瞳」で走る。なかまたちは、いつも「少しは自分たちの声を(エヴァ)に気づかさせたかった」。そして最終章は「エヴァよ」と呼びかけながらも、一転して、その一部始終を「巨大な影の主」が見ていて、気になる「甲高い笑い声を」あげた、となる。この一連の詩を

A一枚の銅版画一月の夜
 雪明り薊の綿毛おもふまで

B獣偏つけて枯野を戻り来る
 冬薔薇のコップの中のいのちかな

C鳥凍てゝ静物となる水の窓
 褪紅のこゑとなりゆく寒烏

D軟骨の冷えゆく耳や春浅し
 飛沫雪やオリーブの実の薫り立つ

E青天の底よりミモザ花雫
 一の橋二の橋歌橋花の橋

の十句が封印している。

詩を封印している句のそれぞれを見ていくと、「心が先走り、思いが先行」して、お世辞にも上手いとはいえない。多分句会の席で回ってきたら2、3チエックはしても最終的には取らないことになってしまうだろう。けれども、「エヴァよ」の語りかけとコラボしたときに上手く説明できない不思議な味を出す。あたかも朗読劇の主人公がスポットライトの下で虚空に呼びかけているようにとても荘厳に思えてくる。攝津幸彦の句を「内臓を指で触られるようにぞくぞくするのよ」と評した女流俳人がいたけれど、まさにこのコラボに不思議な「ぞくぞく感」を感じてしまった。

この不思議さはなに?と考えていた昨晩、いつものように最寄り駅で下車してふらりと入ったコンビニで手にしたクリスピーサンド(パンナコッタ&ラズベリー)の封を切って得心した。

試しにヤフーでクリスピーサンドに関することを引いてみた。クリスピーは「食べ物や紙などがばりばりすること」を現すクリスプの形容詞で「ぱりぱりする」「もろい」「きびきびした」「さわやかな」「ちぢれた」の意味がある。

クリスピーサンド(パンナコッタ&ラズベリー) ハーゲンダッツの商品。イタリアンデザートの「パンナコッタ」にラズベリーソースを組み合わせたものをイメージしたサンドウイッチタイプのアイスクリーム。ミルクの風味が豊かでクリーミーなアイスクリームに、甘酸っぱいラズベリーを混ぜて練乳コーティングしたものをウエハースでサンドしたという。ラズベリーソースの甘酸っぱさ、さくさく食感のウエハースがアクセントになっているほか、ミルクのコクも楽しめるとのこと。果汁・果肉も5%含まれるとしている。

なるほど、これだ。「十句の封印による反祝婚歌」はいわば「丁寧に十のウエハースでサンドしたクリスピー」なのだ。ウエハースとクリスピーがお互いの不足を補い、美点を引き出し合っている。ヤフーの解説にじれったいもやもや感があるものの、ここにきて疑問が氷解した。

再度、「十句の封印による反祝婚歌」を通読してみる。「クリスピー」と「ウエハース」が融合し合って「クリスピーサンド」のいい味をだしている。ことに最終章の展開は圧巻だ。「キリコの絵」を思わせる「巨大な影の主」の出現と存在がこの作品を大きくし、「影の主」の「甲高い笑い」が二人の行方を暗示している。


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