林田紀音夫全句集拾読 077
野口 裕
手花火の昼きてしばらく夜を余す
昭和五十八年「花曜」発表句。おそらく、手花火で一瞬昼のように明るくなった、ぐらいの意味か。「夜を余す」が、句の不可解さの源泉。
花火聞く肋を彫って横たわり
昭和五十八年「花曜」発表句。次の句がこれなので、病中らしい。痩せた胸を「肋を彫って」と詠んだ。すでに生死に無関係の彫刻像となった気分である。
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朝にまで風雨ののこるパンの耳
昭和五十九年「花曜」発表句。林田紀音夫は時々おかしな句を作る。本人は悲劇のつもりなのに、他者からはどう見ても喜劇にしか見えない句。本人は大まじめだということが伝わり、他人を喜ばせようとする邪念のない分、余計におかしい句。
この句、「海程」発表分にはない。本人は気付かなかったか。
なお、昭和五十七年 「花曜」発表句に、
パンの耳残す朝から日が遠く
がある。
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通行の折々暗い筍見え
昭和五十九年「花曜」発表句。竹薮に沿った道。交通量が多いのか、遮蔽物のために死角が多いのか定かではない。しかし、時折眺められる竹藪の奥に筍がある。日々大きくなって行くのが、どこか不気味である。
「暗い」に、景に託した心象を読み取ってもらおう、というのが作者の計算かもしれない。だが、素直に目に飛び込んできた景の報告と取った方が面白い。下句の「見え」に措辞の弱さを感じるかもしれないが、これも報告と取った方がそれを増幅せずに済む。いずれにしろ、紀音夫にはこうとしか書きようのない面がある。
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2009-07-26
林田紀音夫全句集拾読 077 野口裕
Posted by wh at 0:04
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