2009-07-05

日曜のサンデー 中嶋憲武

日曜のサンデー

中嶋憲武


昼過ぎのレストランは混んでいた。
ヒノコさんは目の前でノートを広げたまま、やる気が出ないと言った。
そういえばぼくたちは、ずっとやる気が出ないのであった。

さっきから一行も進まず、注文したサンデーが運ばれてきてしまった。
サンデーのやる気はすごい。高々と盛り上がって、隙あれば容器からあふれ出ようとしている。頂上のチェリーだって真っ赤だ。

どうしてサンデーっていうんだろうねとヒノコさんが、やる気なさそうなロングスプーンを弄びながらいった。ヨーロッパからパフェがアメリカへ伝わったときに、そのような食べものは日曜に食べる習慣になってアメリカでは、サンデーって呼ぶようになったんだよとぼくはいった。へんなのとヒノコさんはいった。へんでもなんでも一行も進んでないじゃないか。だって。だってもへちまもない。へちま?なんでへちまなの?こんなときに。むかしからそういうんだよ。決まり文句だよ。へちまなんてぱさぱさしてるだけだから、未来がないんだもの。

大きな窓ガラスに、雨の雫が幾筋もひかってはひかっては尾を長く引いて下へ落ちていった。

雨だ。降ってきたの?傘ない。すぐ止むよ。すぐっていつの未来?そう遠くない未来だよ。近未来。雨は近未来には止むの?ああ、止むって。

雨は激しくなった。

しばらく止まないね。そうだね。幽閉されちゃうんだ。そうだね。

ぼくたちのやる気は、うなぎ上りになくなっていくような気がした。これじゃ、午後がつぶれちゃうよ。ノートを埋めるんだよ。だって言葉が出て来ないもの。今日はだめだよ。いつだってそうじゃないか。あれ?どうしたの?このサンデー、チョコレートソースが別に付いてきてるよ。かけるの忘れてた。山頂へホットファッジを垂らした。ホットファッジは、枝分かれして、急流となって山麓へ流れて行き、容器からはみ出した。はみ出したホットファッジを指で掬って、ヒノコさんはつるりと舐めた。

ぼくはノートに、「つるさんはまるまるむし」を描いた。そしてこの顔、誰かに似てると思った。

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