2009-08-09

林田紀音夫全句集拾読 079 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
079




野口 裕





軟らかく風逃げて行き鬼瓦

昭和六十一年「花曜」発表句。同年の「海程」発表句にもあったのだが、見落としていた。独立して読む時と、前後の句に挟まれてよむ時とでは印象が変わる句。

「海程」発表時には、

  雨のさくら軍楽隊のむかしより

  軟らかく風逃げて行き鬼瓦
  日の椅子にむなしさ残る膝頭
  風のひとり軍艦色の薄暮来て
  人ひとりづつ軍港の色で消え

と、前後を軍で挟まれている印象が強い。鬼瓦に一瞬まとわりついて逃げて行く風は、なにかの記憶の象徴と取れ、その記憶は鬼瓦の結びついて辛いものであることを連想させる。

一方、「花曜」発表では、

  雨のさくら軍楽隊のむかしより
  さくら降る昨日より今日の凄まじく
  日の椅子にむなしさ残る膝頭
  軟らかく風逃げて行き鬼瓦
  葉桜に明日来る空のなつかしさ
  風溜めてポプラは何時の日から病む

と、前後をさくらで挟まれている。風はなにかの象徴ではあるのだろうが、「海程」発表時よりも、もっと淡い印象のものになる。鬼瓦も目にとどめたものを次々に句にして行くときの点景に見える。二三句あとに、「風のひとり」と、「人ひとりづつ」が出てくるが、軍とのつながりは弱くなっている。

この並びの中で、こんな句があると、はじめて注目した。そして、単独で読んだ時に風の軽やかさと鬼瓦の対照があまりに異様なことにも、やっと気付いた。この時期の紀音夫の句作法は、有季無季に関係なく句を並べてゆくうち、自然と発見される無季句のあらわれ方に注目していたのではないか。この句を眺めていると、そんな気がしてくる。

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