〔週俳7月の俳句を読む〕
鶴岡加苗
賽の目ではなく薄切りで
夏痩の汝と我やめがねして 藤田哲史
「夏痩せ」によって顔の輪郭・目鼻の位置と、めがねとの間に微妙な違和感が生じたのだろう。相手の顔を見てあれっと思った作者。そういえば自分も今日はめがねがしっくりこないような・・・めがねの汝と我との対峙に思わずクスっと笑ってしまう。
それにしても読者に非常に友好的ともいえるこの1句目に対し、2句目からの混沌とした作者の世界観に一気に拒絶された恨みが残るのは、私だけだろうか。
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肌色の箱庭となる灯かな 生駒大佑
現代に生きる私たちにとって、「箱庭」というと、どうしても心理療法などで使われるあのイメージが強いのだが、この句では、自分の満足できる‘夏の景’を作り上げた人物が、そっと明かりを灯す場面がうかがえて、読者も一緒にくつろげるようだ。
無機物なのにどこか人間臭い「箱庭」というモノの一面を、それを照らす「灯」に焦点をあてることで提示して見せた。作者の感性の鋭さを思う。それでいて叙情豊かな作品に仕上がっているところが心憎い。
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水貝や窓にやさしき色の月 大川ゆかり
「やさしき色の月」なんていう、ひどくぼんやりした措辞を用いながら、「水貝」との取り合わせによって、こんなにも心地良く美しく感じられるから不思議だ。当たり前のことかもしれないが、読者はそれぞれの「やさしき色の月」を思い浮かべれば良い。言葉や表現に過剰な負荷をかけない作者の配慮が、10句全体に行き届いており、雰囲気のある作品群だった。この場合の水貝は、賽の目ではなく薄切りで頂きたい。
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夏始まるバトン落とせし少女から 今井 聖
演技用のバトンではなく、リレーのバトンを想像した。私も小学校時代、バトンをよく落とした類だから、この少女の気持ちが痛いほど分かる。だいたい体育が苦手な子は夏という活動的な季節はあまり好きではないのだ。それなのに掲句では、この少女から暑く長い夏が始まるという。酷である。しかもリレーというのはバトンを落としても終わらない。また拾って走らなければ・・・しかしながら、マイナスイメージからスタートした夏は決して捨てたもんじゃない。楽しいことも沢山待ってるよ! と少女に感情移入してしまう。このバトンの色は白と思う。
■藤田哲史 飛行 10句 ≫読む
■生駒大佑 蝲蛄 10句 ≫読む
■瀬戸正洋 無学な五十五歳 10句 ≫読む
■今井 聖 瞬間移動 10句 ≫読む
■水内慶太 羊腸 10句 ≫読む
■大川ゆかり 星影 10句 ≫読む
■高澤良一 僧帽弁閉鎖不全再手術 10句 ≫読む
■山口珠央 海底 10句 ≫読む
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2009-08-09
〔週俳7月の俳句を読む〕鶴岡加苗 賽の目ではなく薄切りで
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