2009-08-09

〔週俳7月の俳句を読む〕中山宙虫 よく見てみると・・・

〔週俳7月の俳句を読む〕
中山宙虫
よく見てみると・・・


自惚と痴呆と猿と夏みかん  瀬戸正洋

「年をとると頑固者がますます頑固になる。」
もう60間近の職場の先輩がそう言った。
その先輩自身、人当たりはいいのだが、自分の信念に触れる部分は昔から頑固だった。
仕事で人とぶつかることがあれば、自分の姿勢はきちんと示しながら、最後は妥協をしてきたに違いない。
けれど、それがだんだん妥協点のハードルが高くなっていくらしい。
とにかく上に対しての目は厳しくなるばかり。
そんな先輩と対をなしていたのが、誰が見たって一歩引きたくなる上司。
「それなら俺に任せておけ。」
どんと胸を叩いて、交渉の場へ行くのだが。
帰ってくれば、真逆の結果を持ってくるのだ。
みんなげんなりとする。
「こうやって皆と飲んでると楽しい。」
宴会でこんな言葉を言う。
誰も、うなずくわけではないが。
彼の自負になっているようだ。
世界は自分を中心に動いているのだ。
あんなことがあった。
こんなことがあった。
彼の昔話は自慢話となっていく。
周りのみんなは、そこにある裏話を知っているからしらけてしまう。
それでも、その自慢話は年を追うごとにひとつふたつと増えていくのだ。
考えてみれば、頑固な先輩も自惚れの上司も定年が近い。
仕事を離れた彼らには、また新たな社会的関係が待っている。
職場という枠組みから外れた時、いったいどういう世界が見えるんだろう。
まさにこの句の世界。
きっとそうに違いない。




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