2009-08-23

散ったフラワー Yoshiko McFarland

散ったフラワー
Yoshiko McFarland


隣人Kさんが6月29日55歳で逝った。陽気なフラワーチルドレンのひとりだった彼を包んでいた当ビル3階の不思議空間も壊されて、ただいま改装工事中だ。

ゴールデンゲート公園がヒッピーで溢れていたころ、若い彼は看護婦Mさんの懐に転がり込み、公園から近いこのビルでヒッピー精神を全うしたまま去った。2人はジョーク好きの仲良しアイリッシュ・カプルに見えたが、彼のほうはサンフランシスカンだったと彼の死後に知った。

彼女が働く一方、彼は週末早朝ガラージセールあさりをして、ひたすら楽しいもの集めに興じ、1LDKの部屋中をおもちゃ、お面、ビートルズらの写真、絵やポスター、異様なデザインの照明器具やイスなどでぎっしり埋めた。Mさんもそれを楽しんで幸せそうだった。世界のどこかで誰かに作られた物が、さまざまな人手を経てKさんの目によって一堂に集まったその空間は、きどったMuseumよりも楽しかった。おねだりすると、2人は私の来客にも快く見せてくれた。

Kさんは、日本の品を手に入れるたびに私に鑑定(?)を乞いに来た。
あるとき古めかしいが保存のいい木版2色刷り草書体の厚い書物をもってきた。おっ、幕末の女性百科事典だよ!万葉集・源氏物語・俳句の楽しみ方から着物の縫い方着付け、洗い方・お花の生け方などの生活百科、子供の育て方、亭主の操縦法までが挿絵入りで満載。彼はこれを買ったついでに、ボール箱いっぱいの古い写真も無料でもらったという。

いったいどこで見つけたの?
好奇心を揺さぶられて、私もそのガラージセールに飛んだ。すぐ近所だった。
先住者の持ち物で倉庫が満杯のままの家を手に入れた新オーナーが、倉庫を空けるために開いたセールだった。土間には淡島千景や淡路恵子ら往年の女優のサイン入りプロマイドが靴に踏まれていた。つづら箱にはLP・SPのレコードがぎっしり。それをつづらごと$250で今日明日に買い手が出なければ捨てるという。
ジャズに加えて浪曲、小唄、長唄、講談・・・
場所とお金の余裕さえあれば私も聴いてみたい!
いったい元の持ち主はどういう家族だったんだろう?

戦時中に日系人収容所で発行されたガリ版刷りの本など数冊に$20払って、散らかった写真の裏書や書類をのぞきまわり、それらの元オナーは、往年の有名バンド、ライオネルハンプトンのトロンボナー、ポール桧垣氏の両親に違いないと判明した。そこですぐにこのことを日本文化センターに連絡。センターの人は、ポール桧垣は日系米人音楽家の筆頭的存在で、ちょうど彼の資料探しをしていたという。彼らは$250を工面して大量のレコードも救えたのだろうか?

この話をすると、Kさんは写真箱を寄付するために快く日本町まで出かけた。
彼が$10で買った女性百科事典のほうは後に大枚で売れたそうだ。

5年前のMさんの突然死が彼の悲劇の始まり。悲嘆からようやく気力をとり戻したかに見えたころ、ひょろ高いKさんは吹き抜け3階から誤って墜落、片脚を複雑骨折した。一時は松葉杖でショッピングできるまでに回復し、新しい彼女が付き添いつづけているというので私たちは安心した。

ところが彼女は住む場所の確保とKさんの母親の遺産目当てで居座って、彼を痛めつけてはお金をせびっていた事情が、この晩春以降の夜中の騒音問題、救急車、警察や成人保護福祉官などの度重なる出動によって読めてきた(アパートの管理人を引き受けている私もそれらのたびに巻き込まれた)。
彼はそれでも彼女をかばい、彼の医療や今後のために財産を保護しようと懸命になる兄思いの妹と衝突したらしく、妹は自分がわるかったのかと、彼の死後も悩んでいる。

彼の死は、脚深くに巣くった化膿菌が全身に回ったのが直接の原因だったそうだが、菌と闘って生きる気力をすっかりなくしていた。ナイフで彼の額や腕を切りつけた痕が明白で、Kさんもそれを認めたため、警察は彼女を逮捕刑務所へ。彼の死はその間のことだった。
前日に見舞ったときには、衰弱が激しかったが顔色はよかった。棒切れのような長い脚。「また歩けるように手の5指をそろえたウメバチでこうやってトントン叩くといいよ」と勧めたら、その夜やっていたと、付き添った妹。しかし翌朝容態が急変して入院、帰らぬ人となった。

彼の宝物の部屋は、彼の妹にはジャンクでしかないらしかった。彼のわずかな知り合いに記念品を分けた後、全てを業者に処分・掃除させた。業者は7月末、2日がかりでめぼしいものをフリーマーケット商品として運び去り、3日目には残りをゴミ袋に入れて、Kさんが落ちた同じ吹き抜けを3階から落としてトラックへと運んだ。
あ、ゴミ袋の下敷きになってる厚地のコカコーラのポスター・・・あれは、アンディー・ウォーホール!?

それがどうした?
世の中、こんなふうに価値をちょん切って捨てながら変化するものサ。
と、自分に言い聞かせ、しばし黙祷・・・
私の死後もこうなると、覚悟させていただいた。

私もKさんの記念品を選ばせてもらった。
バリ島の舞踊面。
目玉も舌もあらゆる顔の部品が飛び出している。
子供のころ、ある資料館でこれを見てものすごく怖かった。
まもなく森の家に引っ越すのだが、その新しい住まいで、これににらんでいてもらおう。


Kさんに捧げる英語俳句 (early July)

"Where has the Tall One gone?"
all dolls incline their head
his crutch alone
Surrounding his bed,
masks are silent
in private memory

a clown is still full

with Kevin and Merveen's jokes
the box holds darkness
"Good bye, Good bye"
flames of bougainvillea
reach over the roof

Fog horns cry
the stairs miss the sound
of his crutch climbing
the wooden dog
lost his cigar and now blowsa pink cloud in the window

bougainvilleaa flower child hides
winking as he did 50 years ago

free from moneyfree from pain
his big smile in mom's arms
        by hoo

1 comments:

Kuni Shimizu さんのコメント...

さっそく掲載されましたね。
よかった、よかった。
Misty morning
an old hippy buys
the last flower