2009-09-20

林田紀音夫全句集拾読 085 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
085




野口 裕





行きずりの日の懐かしさ松飾

平成四年、「花曜」発表句。平成三年、「海程」発表句に、

紅梅に老いざままざと日の途中 行きずりの紅梅としてつまびらか

平成三年、「花曜」発表句に、

紅梅を行きすぎて老まざまざと

様々のヴァリエーションを試みつつ、次第に決定的な句に近づく。老いの感慨は、「懐かしさ」に押し込めた。

 

桜咲くまでの時間のひとりずつ

平成四年、「花曜」発表句。定刻が来るまでの、ちょっとした待ち合わせ時間の雰囲気にみえるが、桜咲くまでの時間がそんなに短いわけもない。人それぞれの日々を過ごす時間をこのように表現したのだろう。結局は誰とも交われない。そんな感慨をうちに秘めつつ。

 

川風のたちまち夜風粥を煮て

平成四年、「花曜」発表句。「粥」から、病人のいる状況が想像される。そんなときはなんとく慌ただしいものだ。ふっと気付くと、もうこんな時間か、ということになる。死の想念はまだ遠くにある。しかし、思い浮かばないわけではない。

草や木に雨足りヨット沖に出る

平成四年、「花曜」発表句。仏教臭の強い句を得意とする林田紀音夫の特性から見て、この句の裏には「山川草木悉皆成仏」の観念が貼りついているだろう。草木やヨットに目を向ける視線はやさしい。

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