2009-10-04

林田紀音夫全句集拾読 087 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
087




野口 裕





葉桜の下急ぐ悔溜めながら

平成五年、「花曜」発表句。順調に推移していた事態が急変。あの時ああしていれば、いやむしろその後手を打つべきだった、などとあれこれ今更どうしようもないことを考えながら現場に急ぐ。時あたかも葉桜。自然は容赦なく時を刻む。


天と地の日暮親しく朴の花

平成五年、「花曜」発表句。鈴木六林男の「天上も淋しからんに燕子花」を思い出す。六林男は、ニヤリとしただろうか。


高層の灯も家庭の灯雷雨来る

平成五年、「花曜」発表句。紀音夫の自己認識には常に、大勢の中のひとり、がまとわりつく。自分の人生が危うかったので、大勢の人生も危ういのだろう。そんな気分が句に込められている。雷雨は幾分安易か。

 

枇杷熟れたうすくらがりの日々を病む
鶏頭の日に日に燃えてたちあがる
波の白着て日日の遍路行く

平成五年、「花曜」発表句。「日」を二つ重ねる三句。句として取れるのは三句目だけだが、こうやって並べると「日」の重ね方の違いが見えて面白い。

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