2009-10-04

〔週俳9月の俳句を読む〕興梠隆 取り合わせを超える

〔週俳9月の俳句を読む〕
興梠 隆
取り合わせを超える


橡の実の喰ひ込んでをり行者道  柴田佐知子

当たり前のことかもしれませんが、道とは長い時間をかけて人の足が踏み固めてきた跡だということに気づかせてくれます。昨日は雨の一日でした。朝、家から会社まで歩いて通勤している途中、何かが傘に当たって音がしました。足下に転がってきたのは、橡の実でした。思いの外、大きな音でした。

 

小鳥くる手を合はすとき指組むとき  ふけとしこ

一読、ジョットの『小鳥に説教をする聖フランチェスコ』を想起しました。が、祈りの姿勢をふたつ提示したことで、この句は、ある特定の宗教を詠んだ句ではないし、そもそも宗教の句でもありません。手を合わす、指を組む、ひざを折る、眼を閉じる、頭を垂れる、・・・・・・信仰がなくても人は無意識にこういうポーズをとることがあります。何かを祈り、何かを願うときに身の回りに起こることは決して偶然ではなく、必然に違いない。そういう意味では、この句は、僕にとって単なる取り合わせをも超えています。

 

さはさはと神を背負ひし稲の波  石地まゆみ

風が垂れた稲穂を起こしているのではなく、稲穂自らが起き上がろうと揺れ動くことで風が生まれるということでしょう。ああそうか、この秋風は、こんなところから吹いてくるんだ。

 

  甘草の芽のとびとびのひとならび(高野素十)
雁(がん)瘡(そう)の乳母(めのと) 
終日(ひとひ)

野火(のび)と親(な)らひ               外山一機

「ひらがなだからこそ複数の意味がやどる」とは、国文学者の小森陽一氏の言ですが、「かんそうのめのとひとひのひとならひ」と、ひらがなに戻してみると、確かにいろんな言葉が見えてきます。文字が蛇のようにうねって迫ってきます。面白い。僕もちょっと作ってみました。

乾燥の眼の
奴婢(とひ)と
妃(ひ)の人並び

お粗末でした。


柴田佐知子 花 野 10句  ≫読む
高遠朱音 立 秋 10句  ≫読む
ふけとしこ 人の名 10句 ≫読む
石地まゆみ 少女期の 10句 ≫読む
外山一機 俳人としての私 10句 読む

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