林田紀音夫全句集拾読 090
野口 裕
甲冑が抱くくらがりの砂時計
平成六年、「花曜」発表句。甲冑が虚ろとなってからの膨大な時間の蓄積。砂時計と書いているが、タイムトンネルかもしれない。
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鏡中を過ぎて無惨に肋彫る
平成七年、「花曜」発表句。見たくなかった自画像。それを思い起こすと、イメージの中で肋はどんどん彫り進められてゆく。「彫る」が、描写を越えた着想。
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面影を追って時計の針ひたすら
平成七年、「花曜」発表句。秒針だろうか、あるいはじっと分針を見つめているのか。針と文字盤の僅かな隙間が、針と影の間に差を生む。差を埋めるかのように、針は影を追い求める。仮に影が針の後を走っていたとしても。
看護婦の折々走りさざめく非時
平成七年、「花曜」発表句。未発表句の前書を見ると、前年に入院している。その時の光景を素材にしているのだろう。人事が自然現象のように見える不思議。
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2009-11-01
林田紀音夫全句集拾読 090 野口裕
Posted by wh at 0:06
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