2009-11-15

〔週俳10月の俳句を読む〕小川楓子 無限の空白

〔週刊俳句10月の俳句を読む〕
小川楓子
無限の空白

銀杏より来る衛生検査員  酒井俊祐

衛生検査員といっても様々な職業があると思うが、ここでは食肉衛生検査員と読みたい。なぜなら、銀杏の独特の臭気が生々しい肉体を感じさせるからだ。衛生検査の言葉から受ける印象は清潔で無機質である。しかし、食肉衛生検査員であれば、獣医師の資格を持ち、生き物、もしくはその死体と接する機会が多い人のはずだ。日々、血や肉や骨を身近に扱っている人が銀杏の独特の臭気の中を歩いてくる。どこかおどろおどろしい風景にもなりそうだが、衛生検査員という無機質な言葉によってさりげない秋の句の印象である。

鶏頭に視線を載せてゐたりけり
  正木ゆう子

鶏頭に、視線を向けることではじめて鶏頭というものを意識のなかに存在させる。真っ白なキャンバスの上に、瞬時に色彩を載せていくような作業をわたしたちは日々、無意識のうちに行っているのかもしれない。この句には、視線を向けることがなかった物はまるで存在しないような不思議さがある。鶏頭の背景に広がる無限の空白がとてもまぶしい。

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