〔週俳10月の俳句を読む〕
西村 薫
場面が終るまで一匙一匙
「衛生検査」酒井俊祐
大皿のきんと冷えたる梨料理 酒井俊祐
梨と野菜のサラダ、梨とポテトのサラダ、
「きんと」大皿まで冷せば、ディナー
地球防衛ロボツトの秋祭
作業用ロボットではなく地球防衛ロボット
地球を侵略しようとする異星人に立ち向かうロボットたち
SFと言ってしまえないリアリティー
林檎タルト映画は悪の勝つてゐる
部屋は林檎タルトの甘酸っぱい香りに満ちている
「悪の勝つてゐる」場面が終るまで一匙一匙食べている林檎タルト
林檎のイメージ「悪」や「誘惑」まで思いを馳せてしまう
●
「盆の波」菊田一平
水揚げの鮫は血の色鉄の色 菊田一平
明急ぐ糶の始のベルが鳴り
鮫の群れ手鉤打たれて運ばるる
明易し白く裂かるる鮫の腹
血溜りに削いで鮫の尾・鮫の鰭
いきなりの水揚げされたばかりの鮫の生々しい描写は
まるで音楽でいう「サビ」からはじまったかのよう
「鮫獲りの船が出て行く」と最初に戻って
「血の色を流して」と終章へのペンを再び持つ感じ
鮫獲りの船が出て行く盆の波
海霧深し祠小さく海に向き
血の色の水を流して盆用意
「血の色鉄の色」「糶の始のベル」「手鉤打たれて」「白く裂かるる鮫の腹」
とこれでもかと視覚、聴覚に訴える
「明急ぐ」「明易し」「海霧深し」と刻々と夜が明ける様子も鮮明で
容易に追体験できて迫力満点
●
秋光の瀧をまぼろしとも覚ゆ 中村与謝男
秋の日にキラキラひかる瀧を白馬ともビーナスとも見えた一瞬
●
日に近く新月はあり曼珠沙華 正木ゆう子
お彼岸の頃の新月は日の出に少し遅れて上り太陽に少し遅れて沈む
地球からみると、月と太陽はとても近い場所に出ている
鶏頭に視線を載せてゐたりけり 正木ゆう子
視線を注ぐ、視線を送る、視線を投げる、でもなく
視線を載せる
鶏頭の花の重量感と表面積の広さは視線を鶏頭の上に泳がせて
載せるものだと納得させられる
「鮫獲りの船が出て行く」と最初に戻って
「血の色を流して」と終章へのペンを再び持つ感じ
鮫獲りの船が出て行く盆の波
海霧深し祠小さく海に向き
血の色の水を流して盆用意
「血の色鉄の色」「糶の始のベル」「手鉤打たれて」「
とこれでもかと視覚、聴覚に訴える
「明急ぐ」「明易し」「海霧深し」
容易に追体験できて迫力満点
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秋光の瀧をまぼろしとも覚ゆ 中村与謝男
秋の日にキラキラひかる瀧を白馬ともビーナスとも見えた一瞬
日に近く新月はあり曼珠沙華 正木ゆう子
お彼岸の頃の新月は日の出に少し遅れて上り太陽に少し遅れて沈む
地球からみると、月と太陽はとても近い場所に出ている
鶏頭に視線を載せてゐたりけり 正木ゆう子
視線を注ぐ、視線を送る、視線を投げる、でもなく
視線を載せる
鶏頭の花の重量感と表面積の広さは視線を鶏頭の上に泳がせて
載せるものだと納得させられる
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流星やネグリジェに長靴を履き 太田うさぎ
金髪で巻き毛の少女が白いネグリジェをひらひらさせて
身体に不似合いなぶかぶかの長靴を履いて
発光体のごとく闇夜の庭先に走り出てきたような情景がまず浮んだ
が、この句は少女ではない、大人の女性
ネグリジェに長靴のアンバランスは幻想的小鳥来るお礼のキスのたいさうな 太田うさぎ
お礼のキスならひざまずいて両足に
■後閑達雄 コスモス 10句 ≫読む
■酒井俊祐 衛生検査 10句 ≫読む
■菊田一平 盆の波 10句 ≫読む
■中村与謝男 熊野行 10句 ≫読む
■正木ゆう子 無題 10句 ≫読む
■太田うさぎ 泥棒 ピーターとオードリー 20句 ≫読む
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