2009-12-06

林田紀音夫全句集拾読 095 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
095




野口 裕





二五八頁途中からの、未発表句は昭和三十六年から始まる。しかし、二五八頁の十六句中だけでも、

海の鉛が渋滞し血縁を断つ
流す灯の渦の眼鏡が死を捉える
河口の幅で追いつめられた灯を頒ける
浮上するビルが忘れた無数の指紋
血をにじませた悪縁の階降りる
島国の紙型にのこっていた刺殺
解版のあとにテロ目に痛い赤
これだけの句が、一八四頁の昭和三十六年「風」発表句と重複している。

福田基の編集後記には、「句帳の中から既発表作品を探し出すことは、まるで難しいパズルだった。」とある。この時期の俳誌発表作品に、第一句集には「*」、第二句集には「**」を付すだけでも相当手間のかかる作業であっただろう。重複があるのもやむなし、の感がある。

また、すでに確認しているように頼まれて外部寄稿した作品も未発表作品の中に含まれている。

このことを念頭に置きつつ、新たな頁に進んで行くことにしよう。

とは言えど、先を思うと若干気が遠くなる。

 

濡れた鋳物の安定を欠く義肢の移植

先行する二句が、「灯だけの駅不眠のトラックが重い」、「火が遠くなる缶詰の質料ころがり」とある。欠けた鋳物の足を接いでいるところ。接いではこてん、ごろんと寝てしまう融通のきかぬ物体。紀音夫の目は、戦後多く存在した傷痍軍人に思いをはせているのかもしれないが、今日の目から見ると、人の意に添わぬ物体に若干のおかしみが漂う。

二五九頁上段から、四、五、九、十、下段に移り、二、十二、十三句目が百八十五頁「風」発表句と重複。しばらくは、まず重複チェックとなりそうだ。

樹々はとどまり汽車剥がしゆく過信

昭和三十六年、未発表句。同年の「風」発表句では、「樹々はとどまり汽車が剥がしてゆく過信」となっている。なぜ、音数を伸ばす句形にするのかが、端的にわかり、参考になる。

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