2010-01-10

林田紀音夫全句集拾読 099 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
099





野口 裕





倉庫の壁に背を押しつけた昼の自由

昭和三十七年、未発表句。第二句集の、「倉庫の壁いっぱいに手垢日差うすれ」よりも面白い。

 

ドラム缶ころがしきようの手が汚れる

昭和三十七年、未発表句。まさかと思ったが、やはり二六三頁六句目と十一句目にまったく同じ句形で並んでいる。錯覚ではない。句帳から既発表作品(特に句集発表作品)を排除する作業で大変だろうから、句帳内の重複まで手が回らなかった結果だろう。

 

靄から出て赤い布巻く受胎身

紺で結ばれ朱に離された情事を悼む

昭和三十七年、未発表句。連続した二句。一句目での受胎した人と、二句目の情事の相手が相異なる人物なのか、同一人物なのか。それぞれに異なる物語が紡げる。この二句が昇華され、どのような発表作品になっているかは、不明。

 

腕時計抜かれた後の夜を刻む

昭和三十七年、未発表句。これだけでも相当の句に思えるが、どこにも発表していない。第二句集に、「針のない時計の顔が伴う軍歌」がある。フライングして、時計に関する句を追うと、

秒針切々と扁平なきようを追う(昭和三十七年、未発表句)

柱時計に秒刻を知る眠りの前(昭和三十八年、未発表句)

時計の円にこもり数字の起伏解く(昭和三十八年、未発表句)

などを拾うことができる。これらの句は、時計を愛でつつも、それを表現するだけでは飽きたらず、物象の表現に見合うテーマを探して句が変転しているような印象を受ける。最終的に句集に残したものには、テーマの重さと引き替えに失ったものもある。

福田基氏のあとがきを読むと、しばしば紀音夫の句はトリビアリズムと非難されている。だが、今日の目から見ると、そこに徹底する道もあったのではないかとも思える。

昭和二十年代の未発表句から並んでいればもっと面白かったかもしれないが、それは無理な注文だろう。

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