2010-01-24

林田紀音夫全句集拾読 101 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
101





野口 裕



拭いたような黒板の夜空微笑は売る

昭和三十八年、未発表句。「風」発表句は前年で終わる。「十七音詩」の発表は、昭和四十年まで続くが、昭和三十九年が飛んでいる。主に「海程」が発表舞台となる時代が続く。

「微笑は売る」は、売笑婦という言い方からの連想だろう。黒板と夜、かつては結びつきやすかったのだろうが、黒板が緑色になってからあまりいわれなくなった。チョークを完全にふき取った黒板と、星が意識されない都会の夜空との質感は似通ったところがある。下五を季語に取り替えれば、より効果を発揮すると思われる。しかし、当時の紀音夫が肯定する発想ではないだろう。

 
問いかける星あり終焉の日のごとく

問いの星答えの星哀別へ遡り

個々影倒して有縁風の墓地

昭和三十八年、未発表句。「草城忌三句」の前書あり。未発表句にはときどき前書きが出てくる。頻度は句集、発表句よりも高い。三句目、「個々影」はどう読むのだろうか。「個々に影」だとわかりやすいのだが。

 

葡萄酒に胎る指その底に死ぬ

掌中にブランデー溜めいずこも檻

昭和三十八年、未発表句。葡萄酒、ブランデー、第二句集には、「瓶かたむけたウイスキー瞼の卒塔婆」(「瓶をかたむけた」の形で昭和三十九年海程発表)もある。第一句集の前期、昭和二十年代には饂飩、カレー、寿司などであった。酒の出る余地はほとんどなかった。句には酒が飲めるようになったことへの戸惑いが読みとれる。

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