2010-01-31

林田紀音夫全句集拾読 102 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
102





野口 裕




足場をつなぎ市街の宙の手が汚れる

鋭角のビルの裾からはみでる手足

昭和三十八年、未発表句。後句の発想の元となる景が、前句から読みとれる。昭和三十八年、海程発表句に、「手がのびて曇天掴む粗い足場」がある。元の景から一端非現実的な景に傾き、再び現実の景に戻る経過が、現実に密着し、あえて句を飛翔させない林田紀音夫の句風を考え合わせると興味深い。

さらに想像を逞しくすると、前年海程発表句「騎馬の青年帯電して夕空を負う」(第二句集収録)、「虹をかけた避雷針上の虚飾に耐える」(未収録)との関連も思われる。「騎馬の青年」の変奏、あるいは深化をこころみたが結局はあきらめた、ということだろうか。

 

食卓の妻にトマトの朱を取られる

傘の蝙蝠色が女の朱に迫る

紅ばらの棘かくされた傷に触れる

天気図に朱がない日々の平衡あわれ

昭和三十八年、未発表句。二百六十九頁に、集中して赤のイメージが現れる。どの句も、憧れ、慰めの象徴として登場する。発表時にいかなる句に昇華を遂げたかは不明。こうした句を読むと、例の「黄の青の赤の雨傘誰から死ぬ」で、それぞれの色に対しての好感度は彼の内部で異なっていたのだろうと想像できる。

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