林田紀音夫全句集拾読 103
野口 裕
雲を飛び紅茶の底に余る砂糖
ジェット機上薄い胸郭椅子に貼る
ビールの塔抜け出て帰る多湿の家
吊革の手の形まで汗粘る
昭和三十八年、未発表句。第二句集の冒頭の句あたりのところで、句のリズムが異常にいびつになった時期があった。その頃にあたる。第一句だけ取り出すと、いったい何じゃとなるが、第二句から考えると、飛行機に乗った状態のようだ。紅茶が出たのだろう。昭和三十九年の「海程」発表句に、「一匙の砂糖の溶けた海を想う」(第二句集収録)がある。
リズムのいびつな句が続く中、第四句のように突然整った句があらわれる。この時期、意識的にリズムの改革を目指したのだろうが、ひょいと身に培ってきた整ったリズムが顔を出す、ということなのだろう。
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わずかな星が祝賀の妻とふたりの路上
昭和三十八年、未発表句。協会賞受賞と、前書がある。当然、現代俳句協会賞のことだろう。ここではたと困惑に陥る。巻末の年譜によると、受賞は昭和三十七年のことになる。受賞記念パーティーが、十月二十六日。
紀音夫は、句を寝かせて発酵させるのを得意とするが、こうした句まで発酵させたとは考えにくい。受賞当時を振り返って、偶然生まれた句と考えるのが自然だが、はたしてそうだろうか。疑問符を付けたまま、解決は後日を期することにする。
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2010-02-07
林田紀音夫全句集拾読 103 野口裕
Posted by wh at 0:04
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