林田紀音夫全句集拾読 105
野口 裕
貨物の流動至るところに夜を曳いて
昭和三十八年、未発表句。夜行貨物列車を想定しての句だろうが、深夜の高速道路を流れる長距離トラックと考えても差し支えない。どこかに発表しているかもしれない、と思わせるものがある。
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レコードの終りの針を胸に返す
昭和三十八年、未発表句。曲を流し終えたレコード針をターンテーブルから離す。それを、胸に返すと見た。見たことによって、「胸」にさまざまの意味が飛来する。曲が流れ終えても、なお流しきれないものが残る。
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風船の五彩を溶かし底の紺天
昭和三十八年、未発表句。「草城句碑除幕式」の前書。たまたま、今日は草城の忌日(一月二十九日)。地から見上げる紺天に、師への思いをはせる。
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常のように火箸突立つ夜に帰る
障子に在る影の女が刺す火箸
火箸の抜けた穴のふたつは墓穴に余る
昭和三十八年、未発表句。火箸三句。二句目が最も成功している。紀音夫には珍しく他者を造形し得ている。しかし、どの句も発表句に進展した気配はない。
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2010-02-21
林田紀音夫全句集拾読 106 野口裕
Posted by wh at 0:25
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