2010-02-21

林田紀音夫全句集拾読 106 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
105




野口 裕



貨物の流動至るところに夜を曳いて

昭和三十八年、未発表句。夜行貨物列車を想定しての句だろうが、深夜の高速道路を流れる長距離トラックと考えても差し支えない。どこかに発表しているかもしれない、と思わせるものがある。

 

レコードの終りの針を胸に返す

昭和三十八年、未発表句。曲を流し終えたレコード針をターンテーブルから離す。それを、胸に返すと見た。見たことによって、「胸」にさまざまの意味が飛来する。曲が流れ終えても、なお流しきれないものが残る。

 

風船の五彩を溶かし底の紺天

昭和三十八年、未発表句。「草城句碑除幕式」の前書。たまたま、今日は草城の忌日(一月二十九日)。地から見上げる紺天に、師への思いをはせる。

 

常のように火箸突立つ夜に帰る
障子に在る影の女が刺す火箸
火箸の抜けた穴のふたつは墓穴に余る

昭和三十八年、未発表句。火箸三句。二句目が最も成功している。紀音夫には珍しく他者を造形し得ている。しかし、どの句も発表句に進展した気配はない。

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