2010-02-07

【週俳1月の俳句を読む】川島一美 戦ってますねぇ

【週俳1月の俳句を読む】
川島一美

戦ってますねぇ


おなじこと幾度もおもふ枯野かな    明隅礼子

誰にもこういうことはある。楽しいことであったり後悔であったり。どちらなのかは季語の働きが重要になる。この作品の場合は後悔の念であろうか。フィルムを巻き戻すように気がかりな場面まで戻っては、違う結果になるのではないかという微かな祈りを籠める。しかし結果はいつもおなじ。来し方の時間は実に正確、実に無慈悲に存在する。しかしまた、一巡りしては〈おなじこと〉に行きつく。祈りのように〈幾度〉も〈幾度〉も。〈おもふ〉の後に、「ことだろう」という言葉が省略されているような、終わることのない切なさがあり、〈枯野かな〉の、覚悟にも胸をしめつけられる。命の誕生を静かに深く受け止めている作品もある中の一句として、気になった作品だ。


凍滝を置き去りにする山の神    三木基史
オレンジのへそ雑音を閉じ込める

〈山の神〉でさえ畏怖の念を感じるほどの〈凍滝〉であるところが面白い。〈置き去りにする〉と、神が格好をつけているのがまた面白い。神が宿るほどの〈凍滝〉よりも、逆発想のこの作品から、厳しく堂々たる姿を想う。この作者は「静」という状態に敏感みたいだ。そういえば、すべての作品に「静」がある。〈オレンジ〉もまた静物。しかし〈オレンジのへそ〉が〈雑音を閉じ込め〉ているにも関わらず、それほど静かな感じがしない。それはほかの果物にはない、〈オレンジ〉本来の陽気なイメージから来るものだろうか。試み或いは感覚の面白さはあるけれど、「風花や黙礼をしてグランドへ」の素直な作品もいいなと思う。


満員電車より吐き出さる一死体  谷 雄介

戦ってますねぇ、サラリーマン。森繁久弥主演の映画「社長」シリーズや、植木等主演の映画「無責任男」シリーズに代表されるサラリーマンにとって良き時代はとっくに終わった。むしろ今、受難の時代。リストラ、年金問題etc。戦争だと敵ははっきりしているが、サラリーマン戦線における敵はというと、七人どころではなさそうだ。これら十句、現代のサラリーマンを、ブラックにシニカルに描いた、単館上映の映画を観ているようだ。日常の景のように満員電車から今日もまた一死体が吐き出され、人件費が削減できたと、安堵する企業。作者はフレッシュサラリーマンなのだろうか。多分そうだろう。初々しい戦いぶりが見て取れる。パートⅠとあるから、続編が楽しみだ。


明隅礼子 冬銀河 10句  ≫読む
三木基史 雑音 10句 ≫読む
谷 雄介 サ ラリーマン戦線異常なし (1) 10句 ≫読む
新年詠(1)第141号 2010年1月3日
新年詠(2)第142 号 2010年1月10日

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