後記 OVERなわたしたち
樋口由紀子
12月23日に開かれた「新撰21竟宴」で初めてさいばら天気さんに会った。廊下でお互い名札を見て「あっ」というのが最初に交わした言葉である。二言三言話し、天気さんが「あきらめていませんから」と。どきりとした。「まるごと川柳」のことである。週刊俳句がスタートして半年ぐらい(?)からまるごとの話をもらっていた。しり込みしているうちに、いくつかのまるごとが週刊俳句を飾り、それらを読むたびに、とても出来るものではないと再確認した。ずっとほったらかしにしていたので、天気さんの方でももう川柳はなしだとファイルから外していると思っていた。けれども、そうではなかったのだ。
それと、いや、何よりも「まるごと川柳」をしようと背を強く押したのは筑紫磐井さんの2010年の週刊俳句の新春詠にある。
挨拶のこころが大事 季語よりも
いやらしい話ではなし池田澄子が横にをり
これらの句を読んで、むっむっと触発された。こんな句をいとも簡単に発表されたら、参ってしまう。前菜からスープ、サラダ、やっとメイン料理になる筈の時、横のテーブルの人にフォークでごちそうを持ってきかれたような、川柳のおいしいところを見事にかっさらっていかれた気分になった。(筑紫さん、狭量ですいません。)これではおちおちしていられないと俄然やる気が出てきた。
昭和中期に活躍した川柳人の川上三太郎は俳句と川柳の境界が問題になったとき、境界は「俳句の方で決めてくれ、あとは全部川柳がもらう」と発言したと聞いたことがあるが、今はそんな悠長なことは言っていられない。やはり、川柳のおいしいところは自分たちで食べたいし、ずっと食べていることを知ってもらいたい。
川柳「バックストローク」は岡山に本拠を持つ石部明が発行人の川柳誌である。UNDERがもてはやされる現在、評を書いた湊圭史以外はすべてOVER55である。川柳は発想にしても、素材にしても、言葉にしても、表現方法の許容される範囲がかなり広い文芸であることがおわかりいただけると思う。
OVERをとくとご賞味ください。
■石部明 いしべ・あきら
岡山県在住。1973年川柳を始める。1979年時実新子に師事。1992年「Z賞」受賞。1998年5人の同人誌「MANO」創刊。2003年「バックストローク」創刊し発行人になる。句集『賑やかな箱』『遊魔系』セレクション柳人『石部明集』。共著『現代川柳の精鋭たち』。
バックストローク http://ww3.tiki.ne.jp/~akuru/back-hp/index-2.htm
顎のはずれた鯨 http://moon.ap.teacup.com/senruu/
■石田柊馬 いしだ・とうま
京都市在住。40数年間、川柳に関わっている。現在、「バックストローク」「ふらすこてん」同人。句集『ポテトサラダ』セレクション柳人『石田柊馬集』。
柊馬のつぶやき http://star.ap.teacup.com/touma/
■渡辺隆夫 わたなべ・たかお
1937年愛媛県生まれ。神奈川県在住。「バックストローク」同人。「逸」「点鐘」会員。「川柳は、俳句よりさらに外交的でなければいきてゆけない」と、『宅配の馬』『都鳥』『亀れおん』セレクション柳人『渡辺隆夫集』『黄泉蛙』と精力的に句集刊行。只今新句集準備中。
■樋口由紀子 ひぐち・ゆきこ
1953年大阪府生まれ。姫路市在住。「MANO」編集発行人。「バックストローク」「豈」同人。句集『ゆうるりと』『容顔』セレクション柳人『樋口由紀子集』、共著『現代川柳の精鋭たち』。
■小池正博 こいけ・まさひろ
1954年大阪府生まれ。大阪府和泉市在住。「MANО」「バックストローク」「豈」「五七五定型」「現代川柳・点鐘の会」。句集にセレクション柳人『小池正博集』、評論集『蕩尽の文芸―川柳と連句』。MANO伝言版 http://8616.teacup.com/ishibe/bbs
■広瀬ちえみ ひろせ・ちえみ
仙台市在住。川柳「杜人」同人・編集人。「バックストローク」同人。「垂人」中西ひろ美と編集・発行。句集『ひ・と・り・遊・び』セレクション柳人『広瀬ちえみ集』。共著『現代川柳の精鋭たち』
■山田ゆみ葉 やまだ・ゆみは
2000年川柳を始める。「バックストローク」「ふらすこてん」同人。また、小学校のとしょかんにて勤務。読書は通勤電車、作句は風呂という時間設定である(居眠りも、電車・風呂の時間帯)。おしゃべりな風 http://wind.ap.teacup.com/yumiha/
■湊 圭史 みなと・けいじ
1973年、大阪府生。川柳誌『バックストローク』同人、『ふらすこてん』会員。詩誌『Lyric Jungle』同人。実験詩サイト『言語実験工房』を田中宏輔・荒木時彦と共同運営。
「海馬」http://umiuma.blog.shinobi.jp/
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