【週俳2月の俳句を読む】
近づいて詠む俳句と遠のいて詠む俳句……馬場龍吉
ねんねこをおろせばその子歩きをり 田中英花
子育ての実感がここにある。ハイハイも出来ない子どもではなく、
第1句集『じやがたらの花』を昨夏上梓されたばかりの英花氏。
さびしさの転がつてゐる雛あられ 田中英花『じやがたらの花』より
ころがつてゆくどんぐりに追ひつけず
一本の影いつぽんのねこじやらし
ふるさとは月にしたがふ秋収
あをぞらのはづれに父の焚火かな
近づけば見えなくなりぬ冬の梅
こういうことってある。
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尻据ゑて湯船きゆと鳴る霜夜かな 古谷空色
寒気のなかを帰ってくる楽しみに酒と湯があるだろう。
桃の花猫のまぶたのもう閉ぢさう
開花の桃の花に眠りかけの猫のまぶたの配置に、
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水牛の背に布を敷き時雨けり 西村我尼吾
〈遅き日の従者の背窓軍用機〉いきなり緊張感から始まる『
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生成りやらオフホワイトやらあたたかし 三浦 郁
この色はほぼ同じことを言っているに違いないのだがビミョーに違
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薄命の地球金縷梅咲きにけり 守屋明俊
花なのか芽吹きなのかはっきりしないまんさくの開花と「
啓蟄やマキの喪明けの線路の音
年代によって時代の象徴は違うものだが、『赤い橋』を歌う「
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朧夜の戸板で作る小舟かな 小倉喜郎
戸板はそこに何かを載せて運ぶものだと思っていたが、
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獅子舞に噛ます華甲の頭かな 伊藤伊那男
「華甲」とは、数え年で61歳。還暦。
伊那男氏も骨太の第二句集『知名なほ』を昨夏に上梓されている。
桑畑を吹かれてきたる獅子頭 伊藤伊那男『知名なほ』より
嚔してふつとあの世を見し思ひ
木曾殿の墓打つてゐる男梅雨
一茶忌の藁引き合へる雀かな
妻と会ふためのまなぶた日向ぼこ
手毬唄久しく聞かず忘れたり
毛糸玉転がしてみてまだ編まず
大人の俳句があるとすれば氏の俳句であろう。
心の臓のみのくれなゐ雪女郎
雪女がまるでクリオネのようである。
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俳句は近づいたから本質を詠めるものでなく、
■田中英花 おほ かたは 10句 ≫読む
■古谷空色 春夕焼 10句 ≫ 読む
■伊藤伊那男 華甲の頭 10句 ≫読む
■西村我尼吾 アセアン 10句 ≫読む
■三浦 郁 きさらぎ 10句 ≫読む
■守屋明俊 浅川マキ追悼 10句 ≫読む
■小倉喜郎 春の宵 10句 ≫読む
■裏 悪水 悲しい大蛇 10句 ≫読む
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2010-03-21
【週俳2月の俳句を読む】 馬場龍吉
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