【週俳2月の俳句を読む】
西村薫
蝶が生れ、詩が生れる
灯ともして雪の高速道路かな 田中英花
雪降る日、日中に点けるヘッドライト
降りしきる雪の向こうに
ぼんやり灯る赤いテールライト
前の車を頼りにハンドル握る高速道路
ねんねこをおろせばその子歩きをり 田中英花
一歳前後の幼児が
大人しくおんぶされているのも一時間が限度
顎まで上ぐるジッパー春夕焼 古谷空色
春夕焼に首筋伸ばしジッパーを一気に上げる
感情を押さえ込んだ男のシルエット
春雪のざらざら残る医院かな 古谷空色
個人経営の小さなクリニック
シャーベット状に固まった雪は庭の片隅に放置されたまま
広い敷地を持つ大病院にない親しみやすさ、温かさ
かの人の賀状もう来ずもう出さず 伊藤伊那男
学生時代の仄かな恋心
何十年も会うことなく年に一回の年賀状で消息を知る間柄
風の知らせで、「かの人」が亡くなったことを知る
もう賀状は来ることもない、出すこともない
毛糸玉転がしてみてまだ編まず 伊藤伊那男
物の重さを手で測るように
毛糸玉を転がしつつ出来上がりの想を練る
だいだいに暮れゆくラオス蚊を追ひて 西村我尼吾
水牛の背に布を敷き時雨けり
タージ青芝白亜のモスク鷹舞えり
閲兵「気をつけ」淑気の立木凸凹と
アセアンと題する蓮作
エキゾティックな情景に季語を配す
それぞれの国の風土を匂わせる
生成りやらオフホワイトやらあたたかし 三浦 郁
白、黒、グレーは無彩色
寒暖感はない
生成り、オフホワイトであれば暖色
囀や引越しの荷を下ろし終へ 三浦 郁
トラックから荷物を下し終えてつく安堵の吐息
汗を拭いつつ新しい生活への不安と喜び
ハイヒールの踵がもげて蝶生まる 三浦 郁
ヒールがもげて窮屈な靴から解放されたとき
蝶が生れ、詩が生れる
木を抱けばまた眠くなり草団子 小倉喜郎
木に触れる、寄りかかる、抱く
心身が解放された時、ひとは眠くなる
実験は失敗また春大根を炊く 小倉喜郎
実験に何度失敗しても
飽くことも、倦むこともない
季節は巡り春はまた訪れる
■田中英花 おほ かたは 10句 ≫読む
■古谷空色 春夕焼 10句 ≫ 読む
■伊藤伊那男 華甲の頭 10句 ≫読む
■西村我尼吾 アセアン 10句 ≫読む
■三浦 郁 きさらぎ 10句 ≫読む
■守屋明俊 浅川マキ追悼 10句 ≫読む
■小倉喜郎 春の宵 10句 ≫読む
■裏 悪水 悲しい大蛇 10句 ≫読む
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2010-03-14
【週俳2月の俳句を読む】西村薫
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