2010-03-14

【週俳2月の俳句を読む】さいばら天気

【週俳2月の俳句を読む】
さいばら天気
懐かしく見晴るかす景色



それもよかろう男根は懐かしい虹  裏 悪水

「男根」という植物比喩を「虹」と断定することで生まれる広大な景色を、私たちは懐かしく(それは時間の距離)見晴るかす。山に根を張り聳え立つ大木のようではありえない一器官の、少々無理の過ぎる夢想を、「それもよかろう」と鷹揚に、この句は受け止める。

それにしても、この大らかな韻律は、どうしたことだろう。いわゆる、うねるようなグルーヴ感をもって、大きな風景・大きな時間が伝わってくる。

金属の揺れているしずかな臓器だ  同

金属、それも精妙な構造としくみを備えた金属を思わせる「揺れ」という言葉の仕掛けによって、私たちの関心は、それを揺らすものへと向かい、心臓との回答案が導かれる。このとき、「原子心母ユニットバスで血を流す」(田中亜美)という圧倒的な一句へと思いが到る。Atom Heart Mother 原子力によって作動する心臓をもつ母。

母、身体、臓器。〔自然〕に属するはずのモノや現象も、すでにとっくの昔からその境界は曖昧だ。自然と文化、自然と人工、自然と不自然。自然がそれそのものによって定まるのではなく、自然ではないものとの相互的な排外によって定まるものであるかぎり(AはBでないもの・BはAでないもの)、臓器に金属機械が忍び込むことなど、新しい事象でもなんでもない。


さて、と、「悲しい大蛇」10句は、性愛のモチーフ(広い脈絡でいえば身体の感応に関わるモーチーフ)に貫かれている。当該の嗜好領域にない者には目を背けたくなるような2句目を含め、どうも、これは、心地よい感興を与えてくれる作品とはいえないかもしれない。性愛に関する言辞は、もっぱらそれらを排して成り立つ俳句のなかに現れるとき、反射的な拒否反応を呼ぶ(わたしもあんまり好きじゃないです、この手のネタ)。

だが、読み手の信条や趣味の如何を超えて、目の前に現れるモノの感触、世界のありようといったものがあるかもしれない。だから、いったんは虚心をもって一行一行を呑み込むことが必要だろう。

そう肝を据えて、快不快といった読者のちっぽけな都合(もう一度言いますが「姉」とか「恋人」とか、気持ち悪いっす)から逃れ、謙虚に「悲しい大蛇」10句を読んでみる。すると、幅広く多様なアプローチでもって、なにか言いようのないものを組成している気がしてくるから、ありゃま吃驚。何かを読むことの不思議さを、この作品によって思い出させてもらった気がしている。



豚のような兎のような春の宵  小倉喜郎

豚も兎も白いイメージなので、電球の灯る春の宵。豚と兎の共通点を考えてみたが、ほかにあまり思いつかない。考えてみれば、共通点が多いなら、どちらかひとつで事足りる。豚と兎で「春の宵」という集合が埋まりきるなら、それは、なんだかあたたかい。豚でもなく兎でもなく、いったいどっちのようなのだろうという迷いがこの句なら、春の宵はどっちつかずにふらふら揺れている。いずれにしても、数学のような(わたしはヴェン図を思った)比喩で出来上がる春の宵だ。



霧の原野少年ところどころジャンプ  西村我尼吾

読者の多くが(ひょっとしたらほとんどが)、この句に「少年ジャンプ」を見出す。マガジンでもサンデーでもないオルタナティヴを標榜した(と仄聞する創刊当時の)ジャンプ、それはもう、原野っぽさ横溢。

霧のなか、少年の跳躍が遠く見える。そこがアジアなら、ここもアジアだ。

1968年創刊の「少年ジャンプ」の初期連載、「ハレンチ学園」「男一匹ガキ大将」「アストロ球団」を、少年だった私たちは「そんなアホな」と呆れつつ笑いつつ読んだ。いずれも、今の若者に一読をおすすめする。こんな阿呆なものを読んで育った人間を、きみたちは父とし上司としているのだ。

けれども、賢いきみたちは、すこし羨ましく思うかもしれない。バカみたいに何もわからず(五里霧中?)ジャンプしていた少年たちを。



寒林を抜けて真つ赤なすべり台  田中英花

とってつけたような、わざわざつくったような公園は多い。そこに備えられた遊具を見るとき、たいていは、子どもが遊んでいたりせず、そこに子どもがいる景色も想像できない。なんでまたこんなものを、と思う。ひょっとしたら、こっちの気力が萎えるような思いを与えたくて、つくったのかもしれない。まわりくどい悪意。

よりによって真っ赤。よけいに萎えるが、その手のものとの出会いもまた、人生の一側面なのだから、しかたがない。


田中英花 おほ かたは 10句 ≫読む
古谷空色 春夕焼 10句 ≫ 読む
伊藤伊那男 華甲の頭 10句  ≫読む
西村我尼吾 アセアン   10句  ≫読む
三浦 郁 きさらぎ  10句  ≫読む
守屋明俊 浅川マキ追悼  10句  ≫読む
小倉喜郎 春の宵  10句  ≫読む
裏 悪水 悲しい大蛇  10句  ≫読む

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