【週俳2月の俳句を読む】
金持ちになってリビングにシャンデリアを飾るのが夢なのさ……酒井俊祐
尻据ゑて湯船きゆと鳴る霜夜かな 古谷空色
ここでは、最近ではあまり見なくなった(と私は思う)ステンレスの湯船を想像したい。子供の頃祖父の家で、何もすることがなく終日テレビを見て、風呂に入って意味もなく湯船の音が楽しくなる。一方浴室は寒く、湯自体もだんだんぬるくなってくるがあまり出たい気分でもない。そんな感覚を呼び起こされた気がした。
霧ゆけば現れ消ゆる暮らしかな 西村我尼吾
民の家から煙が立ち上るのを見て…という故事があったが、この景はもっとドライなものであろう。おそらくこれを見ているのは政を司る立場の人々であろう。暮らしが現れ消える。So what?司る立場に立ってみると、本来心を配るべき民の暮らしも、通り過ぎる一風景にしかすぎなくなってしまう。でも、それは至極当たり前な、正しい反応なのだ。人間のそんな都合のよさが読み取れる。
灯しても灯してもうしろめたい幸福 裏 悪水
金持ちになってリビングにシャンデリアを飾るのが夢なのさ、と言っていた友達がいたがそんなことはどうでもいい。生き物とは貪欲で、手に入れればもっと欲しくなる性であったりもする。灯すのは特に現実の明かりでなくてもよいだろうが、どれだけ明かりを求めてきらびやかにしたところで、闇が必ず残ってしまう。でも、闇があるから明るさが幸せに思えたりもする。正直な性向が凝縮されている。
■田中英花 おほ かたは 10句 ≫読む
■古谷空色 春夕焼 10句 ≫ 読む
■伊藤伊那男 華甲の頭 10句 ≫読む
■西村我尼吾 アセアン 10句 ≫読む
■三浦 郁 きさらぎ 10句 ≫読む
■守屋明俊 浅川マキ追悼 10句 ≫読む
■小倉喜郎 春の宵 10句 ≫読む
■裏 悪水 悲しい大蛇 10句 ≫読む
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2010-03-21
【週俳2月の俳句を読む】 酒井俊祐
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