2010-04-11

林田紀音夫全句集拾読 110 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
110




野口 裕



保護帽に顎締め焚火からはじまる

昭和四十年、未発表句。今でもありそうな光景。作者自身は自嘲めいたものを内に秘めているのかもしれないが、寒気に引き締まった戸外の共同作業を思わせて紀音夫には珍しい。


煉瓦工高所に曲り雲走る

囚徒の手に解体煉瓦の赤褪せる

昭和四十年、未発表句。昭和四十六年、「海程」および第二句集に、「赤煉瓦はこぶひとりに巫女の影」。この句の先行形とすると、かなりのタイムラグ。紀音夫にはあり得る。

 

風雨に寝る嬰児銃眼の矩形に浮き

昭和四十年、未発表句。このあたり、二句に一句の割合で、吾子俳句がある。こんな幸福が自分に来たのはなにかの間違いだ、という感覚で詠まれた句に、その証明として割り込んでくるのが戦争の影。ここでは、銃眼がそれを担う。

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枕の中に銃の響きの軍隊満ちる

吊革の手が銃身の重さ知る

昭和四十年、未発表句。ちょこちょこと、「銃」が出てくる。発表句での頻度よりは高い。紀音夫には、直接体験につながるような事柄を句に持ち込むことを嫌う傾向が見て取れる。「銃」という言葉はその犠牲になったところもあるだろう。

 

生きている人影を踏み首振る鳩


昭和四十年、未発表句。紀音夫には珍しい素材。類想感があり発表を敬遠したか。

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