2010-04-25

林田紀音夫全句集拾読112 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
112




野口 裕



哺乳瓶立つ軍艦を青く沈め

昭和四十年、未発表句。同年、「海程」発表句(第二句集収録)に、「胸の嬰児に軍艦色の薄暮迫る」。この句のモチーフは「青空が見え漂着の哺乳瓶」(昭和六十二年、「花曜」)まで、引きずられる。

 

雨粒の傷のガラスに都市暮れる

昭和四十年、未発表句。このあたり、昭和五十年頃まで、見開き二頁に必ず一句はガラスの句がある。視覚から入る作家として、ガラスはとくに扱いやすい素材ではある。この句が特にどうこうというわけではないが、ガラスを扱った句の頻度につき、今気付いたので記しておく。

 

幼児のさすらいの砂を両の手より流す

暗い昔の砂を幼児の手に移す

前句、昭和四十年、未発表句。後句、昭和四十一年、未発表句。前句、昭和四十年、未発表句。昭和四十一年、「海程」および、第二句集に残した最終形は「暗い昔の砂の幼児の手に移す」。推敲の過程が分かると同時に、初形から削ったものも分かる。「さすらいの砂を両の手より流す」、これはまさに啄木である。

 

羽根ゆらめく噴水背後の声毀れ

昭和四十一年、未発表句。「羽根ゆらめく」が噴水の形容。羽根が天使を連想させ、多分に天上へのあこがれを含む。背後は噴水の背後ともとれるが、作者の背後であろう。背後にある、おそらくはにぎやかな、声を作者は雑音としてしか受け取れない。それが、「毀れ」という措辞に込められている。この句の発展した形のものは、発表句および句集には見当たらない。

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