2010-04-25

オーロラ吟行 第3日 マイナス30℃でチェナ温泉に入る 〔後篇〕 猫髭

オーロラ吟行
第3日 マイナス30℃でチェナ温泉に入る 〔後篇〕  ……猫髭 (文・写真)


ゲートをくぐると、右手に水色の大きな半円形のドームがあり、「氷の博物館」とのこと。入る?とりんさんが身の毛もよだつ御提案。氷の寝台にムースの皮を敷いて寝袋で泊れるアイス・ホテル付だそうで、室温はマイナス5℃の暖房完備(?)。人気があるらしいが、ぶるるるる、死体安置室のようなアメリカン・ジョークは無視して、早くお風呂に入ろうよ。

りんさんが、ちょっと待ってと、電源の延長コードをトランクから出すと、西部劇で馬を柵につなぐように、車のフロント・バンパーから垂れているプラグに挿して延長コードの先を柵のそばにある電源プラグに差し込んでいる。エンジンが凍らないように、極寒地の車はみなフロント・バンパーに電源プラグが付いていて、こうしてすぐ始動出来るように温めておく仕掛けになっているそうな。

確かに、ここは天然冷凍庫。オーロラハウスの外気とは違う寒さである。寒さが深い。「氷の博物館」から氷の女王が出て来て、ぎゆう~っと締め付けるような寒さで、一気にシッコしたくなった。皆もそうらしく、ロッジの中のレストランのトイレへ直行。女性陣を先に行かせて、壁から首だけ突き出しているムースの剥製を眺めていると、レストランのウェイターが近寄ってきて、反対側にもトイレがあると親切にも案内してくれた。サービスも良さそうだし、お客も静かだが和やかな雰囲気で食事をしているので、ここでディナーにしてもいいなと思ったが、食べているフードを見るや、見ただけで腹一杯になるほどのでっかいステーキ、山のようなフライドポテトにケチャップだばだばシャバウヴィ、げんなり。牛は昨日一年分食ったような気分なのでモーいい。


入浴後夕食は考えようと、お風呂がある奥の建物に向かう。受付は陽気な黒人の若い衆。男女別のロッカーがあるから、そこで着替えてから室内プール経由で外に出ると、岩風呂があるとのこと。あ、ビーチ・サンダルがレンタルで置いてある。そうか、ここで使うのか。でも、サンダル履いては泳げないし(猫爺泳ぐ気満々)、入浴料(千円くらい)を払って、下駄箱に靴を入れ、踏み板伝いに裸足でロッカー・ルームに向かう。25¢を入れてコイン・ロッカーへ服を押し込んで、シャワー・ルームを抜けると室内温泉プール。子どもたちが遊んでいる。ガラスのドアから岩風呂が見える。50メートルのプールくらいの広さだろうか。それほど大きくは無いが、それほど狭くはないという感じ。しかし、外はマイナス30℃。エイヤッと飛び出す。プライバシーがあるので写真は撮れない。読者にはせめてわたくしのメタボ水着姿を想像していただくために、飛行機のトレイに書かれていた絵を御覧いただくことで、御想像にお任せしたい。いらんわい。まあ、そう言わんと、このトレイが実にアメリカだから。


なだらかな階段が岩風呂に沿って風呂の中へそのまま続いているので、寒いのは30秒ぐらいだから、鳥肌が立つ前にお風呂にはいれる。湯の温度は35℃くらいと、ぬるめ。とはいえ、外気がマイナス30℃、温度差が65℃はあるから、この落差がぬるいとは感じさせない。階段は腰くらいの高さで終り、風呂の中へ入ると、意外と深く胸までつかるので1メートル20センチくらいあるだろうか、立風呂である。子どもには深すぎるので大人用。底は小さな砂礫が敷き詰めてあって、足の裏をマッサージするようで気持がいい。岩場まで歩いて行くと、岩はぬるぬる滑るので、ちょうど腰掛けられて首までつかるような感じの段差のある岩はと探すと、ピンクの土左衛門のような白人女性がガバリと海馬のように張り付いている。

りんママを先頭に大君中の君御入浴。立て札には「泳ぐなら自分のリスクでな」と書いてある。空いているので、平泳ぎしたり、歩き回ったりで、岩場に寄って休むと、岩に氷の花が咲いている。霧氷よ、これ!とりんさん。ムヒョ~♪言うなよ。

岩風呂を泳いでゆけば霧氷かな りん

岩にかぶさる木は樹氷である。暮れかかる空からは雪が降っており、露天風呂に入りながら、雪を眺め、霧氷を眺め、樹氷を眺める。これで酒があったら。みなまで言うな、わかっとるぞと、りんさんがとことこプールの方へ上がって行って、昨日の源泉の水を持って来る。確かに温度差65℃で酔っ払ったら一発で心臓麻痺だな。この水がまた、うまかっぺ。

源泉の水喉落つるチェナ温泉 猫髭

ふと見ると、三人の頭が中華麺の春雨のように真っ白になっている。春雨の細いものを粉絲(フンスー)と言うが、そんな感じで、三人とも白髪のお婆さん。あら、猫さんだって白髪のお爺さんよと言われて、もともとわしは白頭だがと、頭に手をやって全員ビックリ仰天。髮の毛パリパリに凍ってますねん、何これ!

温泉にならぶ頭の凍てにけり 薫子

体は温泉の中だから暖かいし、顔は寒さを感じなかったが、頭だけは露出しているので、湯気がまとわり付いて湿った髮が凍りついたのだ。お湯を注いで髮氷(?)を溶かして、物の1分も経たないうちに又パリパリに凍っている。ムヒョ~。やんなって(懐かしのWけんじ調)。

チェナの湯に三つ数へて髮凍る 猫髭
髮の毛の凍つてゆける外湯かな 千鶴羽

頭が凍るとさすがにぬるく感じて、湯の湧く方に歩いてゆくと、だんだん熱くなって、45℃を越えたくらいに感じたので、A CHI CHI A CHI Livin' la vida locaと踊りながら近くの岩場に上がって、額に巻いた豆絞りの手拭いで汗を拭いていると、湯の中にいた時はかすかだった硫黄の臭いが、ここではかなり強烈。箱根の地獄谷みたいだなあとぼんやり岩風呂を眺めていたら、クラクラっと来た。湯中りなどしたことがないが、最後は75℃の温度差でかなり硫黄臭を吸い込んだのでクラクラ日記の三千代さんで、どぼんと落っこちて、ほうほうの体で風呂から上がった。

シャワーを浴びても汗が噴き出て止まらない。軟水の温泉なので体の芯までぐつぐつに煮込まれたように全身から汗が噴き出すが、裸でうろついたら死体置場に安置されかねないからトレーナーの上下だけでフロントまで戻ると、ブラックの兄いが、へい旦那、どうだったと聞くから、白目剥いてフラダンス踊ってやったら、涙流して笑い転げて、おめえみたいなの一杯見たよと手を叩く。だろうな。中と外の温度差がこれだけあると知らず知らずの内に湯中りになる。スニーカーの紐を結ぶのさえ目が回る。外のマイナス30℃の外気すら汗を止められない。

みんな上がって来たので、暗くなって来たし、取りあえずチェナ温泉を後にすることに。車のところまで汗を拭きながら行くと、雪で窓ガラスが真っ白に凍っている。雪掻きで窓の雪と氷を落として汗を拭おうとしたら、イテテ、あら手拭いもう凍ってやがる。アラスカだねえ。


明るいときにあれだけ難儀したのだから夜道は大丈夫かと言うと、音楽の力は凄い。BGMに作ってきたジャズがJALのジェット・ストリームのように憩いのひとときを醸し出す。1曲目はジョン・ナザレンコのピアノ・トリオでローリング・ストーンズの「黒く塗れ」。これがエキゾチックなリリシズムに溢れていいのである、夜のしじまが帳を下ろしてゆく、そは夕とろどきぬらやかなるトーブたち(ルイス・キャロル『鏡の国のアリス』)。これにソフィー・ミルマンでポール・サイモンの「恋人と別れるための50の方法」が続くと、これまた物凄い美女で美声だから、別れる方法を聞いているうちに焼け棒杭に火が付くようなジャズに仕上がっているのである。てな調子で、雪の夕暮を走れば、やがて雪も止んで空には雪雲を縫って夕焼すら刷かれ始める。

くれなゐの雪原やがて真暗闇 薫子

昨夜はステーキだったから、今夜はシー・フードにしようかと言うと、チェナ・ロードの途中にフェアバンクスで一押しのシー・フード・レストランがあるそうなんだけど、とりんさん。フェアバンクス一押しと聞くと、昨日のジャイアント馬場の靴底のようにでかいステーキを思い出して、キング・クラブがまるごとテーブルに出てくるような妄想が全員の脳裡を駆け巡り、誰も食べた~い!と嬌声を上げない。あ、冷蔵庫にカリブーのミンチがあるとりんママ。カリブーの肉は市販されていない。狩猟許可を持ったハンターが獲ったカリブーを、専門の場所で解体して切り分けたものを貰ったという貴重品。それだ、今夜はトナカイを食おう。食前酒のサングリアもあるし、御飯も炊こうかと、一路オーロラハウスへ。白いトナカイの表札のオーロラハウスが見えた頃、やっと汗が引いた。

オーロラハウスは、狭いながらも楽しい我が家ではなく、広くて楽しい我が家である。早速、全員でりんさんに教わったビールのラッパ呑みをしながら晩餐の準備。旧式のスイッチ式の電気釜は中のスイッチの接点がずれているのか、電源を入れても炊飯にならずに保温になってしまう。とりあえず猫が応急処置をして炊飯モードになったところでGO!お、炊き始めた。

さて、問題はカリブーの肉。猫も食ったことがない。味が分からないと料理も作れない。ミンチだからハンバーグか肉団子かミート・ソースにするしかないが、生肉を少し味見すると、鹿肉よりも重い味である。野生の肉はレバーのような独特な味があり、これが好き嫌いの分かれ目になる。シンプルにハンバーグで行こうと、二種類作ることにする。ひとつは肉そのものを味わうために塩胡椒だけ。もうひとつはジビエを食べ慣れない人にも食べ易くするために、塩胡椒して、生姜汁をたっぷり擂って絞り汁を入れ、りんさんのアドバイスでオリーブオイルも入れて能く練る。ジビエの重い味にはオリーブオイルが合いそう。

茸の味噌汁を作ろうとしたが、探しても出汁がない。りんさん曰く。アラスカには鰹節や昆布や煮干は売ってないのよ。出汁の無いミソ・スープじゃなあ、コクが出ないし。ふと、りんさんが釣ってきたフーリガンという魚を焼いたら出汁になるかもしれないと、オーブンで鮭と一緒に焼いてもらう。フーリガンとはサッカー・ファンのならず者という意味で名前は凄いが、大き目のヒシャモのような感じで、味も似ているから、あっさりした出汁が取れるかも知れないと思いついたのだ。焼きあがったフーリガンで出汁を取ると、果たして上品でいい味を出す。ソーメンなんかの出汁にも合いそう。


大根を切って出汁に入れ、茸を何種類か買ってきた奴を、サラダ油で炒めてからこれも出汁に入れる。炒めると香りが出るのだ。りんさんが持ってきたアラスカの醤油で味を軽くつけ、隠し味に酢を垂らす。あとは食べるときにアラスカ豆腐を入れて温めて、これで茸汁は出来上がり。

目借時千鶴羽さんとデイリータオル薫子さんも「りん&猫髭レストラン」の助手兼給仕としてフル回転。御飯は少し焦げたけど無事炊けて、サルサ・デ・ポマドーロと茸汁を温め、最後にハンバーグを焼いて出来上がり、さあ、いただきましょう。


サングリアで乾杯。好評。サングリアに漬けたフルーツも食べられるのかしら。苦くて食べられない。赤ワインの渋みや苦味を全部フルーツが吸い取っちゃうから。

カリブー・ハンバーグは、肉だけのワイルド・ハンバーグはやはりレバーっぽい重い味が、初めてでは苦手なよう。ジンジャー・オリーブオイル・ハンバーグは好評。大根卸しと生姜卸しと、昨日「シルバー・ガルチ」で地ビールで煮詰めたマスタードを二種類買ってきたので、それらも付けながら味わう。抜群の相性が、サルサ・デ・ポマドーロとワイルド・ハンバーグの取り合わせ。見事に臭みが消えて力強い味になる。これにはわたくしも驚いた。


雪原やカリブーの肉焼き上がり 千鶴羽
カリブーを焼けエレファント・ガーリックで 猫髭

生サーモンを焼いたのは大根卸しで。う~ん、皮がメチャンコうま~い。猫の故郷の那珂川は鮭が獲れる日本最南端の川だが、高級魚だから、密漁でもしない限り、ひとり一切れで、今宵のように、四人で半身を食い放題というわけにはまいらない。この生鮭の味を覚えると塩引きは食べられない。

茸汁も、アラスカ豆腐が、豆腐の角に頭をぶつけたら瘤が出来るかも、と言うと大袈裟だが、締まり過ぎて固いのを除けば、八方出汁が作れない条件の中ではなかなか健闘している味と言えるかも。

また、りんさんが買って来たジャガイモがおいしい。一口にジャガイモと言ってもアメリカのジャガイモは色々な種類があり、その色、形、これがジャガイモ!?と驚くようなものもあり、このジャガイモも日本では見たことが無いが、まさしく新ジャガの味で、アラスカの塩で食べるとおいしい。

満腹の後は、お約束の句会。猫と中の君は多作多捨だが、りんママと大君は連続句会に慣れないのか、怖気づくので5句出しとなった。結果は、句が少ないと皆同じ景を詠むので類想類句が多くなり、ぱっとしなかった。考えずにばんばん詠まないと、下手な鉄砲は中らないものであるよ。苦し紛れの一句が思いも寄らない「自分らしさ」を垣間見せることもあるから、俳句は沢山詠んだ方が、多々益々弁ず也。

(4日目に続く)


【予告】
4日日(水)チェナ湖でアイス・フィッシング。
5日目(木)犬橇。
6日目(金)オーロラ宴会。

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