第2回「週俳・投句ボード」2009年4月の俳句から
佐藤文香・撰
○花時を総務経由で来られたし 古城いつも
ビジネスなんかで「直接ズバッと」言ったりするのは、日本の花の情緒とは対照的。そういう意味で、「花時」という季語の本意をつかんだ句だと思います。「来い」でも「来てください」でもなく、「来られたし」。もっともうちの職場では、総務課長が私の斜め前の席ですが。
○番台へ桜の一枝と小銭 近 恵
桜折る馬鹿梅折らぬ馬鹿、とかなんとかいうのがありますが、折られて一枝になってしまえば、それは完成品。小銭の錆びた金属と桜の薄い花びらが、番台の木目の上でかかわり合う様子がいいですね。番台の下か奥の方で埃被ってる花瓶を出してきて、しばらく枝が活けてあるのを話の種にする常連客がいたりするのでしょう。
○目刺から串抜いてゐる有り難い 古城いつも
「目刺あぶればあたまもしつぽもなつかしや(種田山頭火)」とセットでいけそうです。「有り難い」とか「なつかしや」という述懐を詩にさせたがる、目刺という素材を改めて見直しました。イキモノ感とメタリックな風格、たくさんいるなかの一匹ずつの存在感と、一匹にしてしまったときの切なさと。串を抜くたびに「有り難い」と思う、ああなんだか次目刺を食べるときにはそうなってしまいそう。
○何本か杭の芽吹ける三鬼の忌 矢野孝久
三鬼の忌が万愚節なのは言うまでもありませんが、朽ちかけた杭に芽吹く、その一本ごとのダサおめでたい様子、一本でも全部でもなく「何本か」のどうでもいい把握。この句の春らしさといったら群を抜いています。
○終演や田楽に味噌たつぷりと 露結
終演、そこで感想を言い合うようなことはせず、ただたっぷり味噌のかかった田楽を大きな口で食べている、食べてはたっぷりの味噌を見ている、見ながら考えているのだけれど、また次の一口のために大きく口を開ける……そんな人が見えてきて、面白かったです。
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