2010-05-02

【週俳4月の俳句を読む】小野裕三

【週俳4月の俳句を読む】
意味不明な感じがスパーク……小野裕三


春の昼埴輪の犬に舌のある  松尾清隆

あ、あ、あれって、そうなんですか? 埴輪の犬。ちゃんと舌があるんですか。ふーん、それは知りませんでした。俳句の世界で「発見」というのはたいがいが「既に誰もがうすうす気づいていること」だったりするのですが、本件についてはまったく未知でした。いや、本当に僕自身は未見なので実は騙されているだけかも知れませんが。その発見の真偽はともかく、季語がとてもよく効いています。

金箔がケーキに少し鳥の恋  蜂谷一人

ケーキ俳句って、結構いい句ができるなあ、と思ったのは僕だけでしょうか。俳句自体が、絡み合う人の思いを軽く解きほぐすようなところがある文芸なので、もともと軽く人の思いが絡みついていることの多いケーキという食べ物は(だって、プレゼントになったりしますからね)、案外と俳句には向いているのかも知れません。誰がどういう思いで用意したケーキでしょうか。鳥の恋も、あまり重たくなくてよいです。

柄(つか)に手をかけて覚めたる春の夢  藤田直子

僕はこういう嘘、好きですよ。ドラマ性のある俳句ってなかなかなくて、ドラマ性を作ろうとするとどうしても嘘っぽくなったりするのですが、嘘をつく場合にはもう堂々と嘘をつき続ける必要があります。だって、ドラマってそもそもそういうものですからね。堂々とした嘘の俳句、ということでこの句はぜひ表彰したいです。

片脚づつ伸ばし蛙の脚長き  満田春日

これもいわゆる「発見」の句ですよね。物理的な事実としてはそうなのですけど、蛙の脚をびよーんと一本ずつ伸ばして見ている奴がきっとこの作品の背後にはいるわけです。こどものいたずらでしょうか。あるいは何か生物学系の実験とか。あるいは食用? なんでもいいですけど、そのように俳句の背後に隠れている人の所作をいろいろと想像してしまうのが、単なる発見に留まらないこの句のよさでしょう。

亀鳴くや沖に時価総額の船  田島健一

田島氏の俳句には、以前からとても注目しています。注目しているというか、瞠目していると言ってもいいかも知れません。以前に発表された「白鳥定食いつまでも聲かがやくよ」。これは俳句史上に輝く名句でしょう。ということで田島氏は僕にとって、「今度はどんな俳句?」とわくわくしながら読みたくなる、数少ない同時代の俳人です。今回は、時価総額の船。なんじゃそりゃ。しかも岸辺では亀鳴いてるし。意味不明な感じがスパークして、えも言われぬような味わいです。ただ、このスパーク、絶品なだけあってさすがに非常に稀少です。最高級の絶品は一年に一句ペースかな? いやいや、それでもくじけずに頑張ってください。


松尾清隆 飛花となる 10句 
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蜂谷一人 波蘭 10句 
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藤田直子 踏青 10句 ≫読む
満田春日 スピード 10句 ≫読む
田島健一 残酷 10句 ≫読む

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