2010-05-02

【週俳4月の俳句を読む】久保山敦子

【週俳4月の俳句を読む】
辛子も効かせたいところだけど……久保山敦子


わたくしをほどいてゆけば春の水      蜂谷一人

「わたくしをほどく」とはどういうことだろう。
「わたくし」を決定しているのが遺伝子だとすると、あの螺旋がするするとほどけて
いくようすがイメージできる。そしてずうっと太古にさかのぼり、生命をはぐくんだ水の
地球が思われる。それはまぎれもなく「春の水」。


永き日の蝶の切手をちぎりをり

切手シートからぴりぴりと切手をちぎる。
コレクションもいいけれど、やはり使ってこその切手だろう。相手によって、季節に
よって切手を選ぶのは楽しい。
貼られた「蝶の切手」は差出人の魂を乗せてひらひらと飛んでいく。
切手もこの日を待っていたかのようだ。


嫁姑ゐて青饅に酢が足りぬ       
藤田直子

「嫁姑」は永遠のテーマである。
作者が「嫁」である場合、これを句に詠むのはたいていよい関係であることのほうが
多いだろう。そうでないときは、詠まずに心の奥に押し込んでしまう。
この句は「ゐて」と書かれてある。作者は客観的に見ているのだ。
母と娘だったら味を見てもらうところだが、この「嫁姑」はお互いに気を遣っているよ
うだ。甘めにしておくのが無難なところ。辛子も効かせたいところだけど。


踏青や足跡のこるべくもなく

砂浜や雪道などでは足跡を振り向くことがある。
だがこの柔らかい草の踏み心地は足跡を残さないのだ。
「踏青」を、越し方の感慨やこれからの決意のように詠んだ句は見たことがあるが、
「足跡」との取り合せは新鮮だった。
今現在をしっかりと踏みしめている作者がいる。


天上のふるへつたはる糸桜     
満田春日

枝分かれしながら枝垂れる細い枝先が目の前で揺れている。
見上げるほどの大木なのだろう。
「天上」という言葉は死後の世界も指すが、これも桜にふさわしいだろう。
「ふるへつたはる」は作者と天上との交感かもしれない。



松尾清隆 飛花となる 10句 
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蜂谷一人 波蘭 10句 
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