2010-05-30

オーロラ吟行 第5日 パスカル家の犬橇 〔後篇〕 猫髭

オー ロラ吟行
第5 日 パスカル家の犬橇 〔後篇〕  …… 猫髭 (文・ 写真)


無事りん&千鶴羽組帰還。いよいよ我々の番である。ぶっとばすぞおと勇んで膝を屈伸させていると、パスカルさんが、あなたはしんがりよと言う。どうやらマッシャー・パスカルは、膝を突っ張らかしてチンチンスタイルで橇に摑まっている大君の立ち姿を見て、大君の運動神経が著しく敏捷性に欠けることを見抜いたようである。早い話、わしにフォローしろということである。思わず犬たちと顔を見合わせた。亀のあとを狼がついてゆくようなもんだなあ、相棒。


ハスキーの背ナ波立ちて斑雪 りん

スタート!ストッパーを外すと、犬たちは吼えながら一斉に走り出す。最初は坂を左へ下ってゆくから、重心は左に移動するが、大君は真っ直ぐ棒立ちなので右に振られて慌ててバーにしがみついて振られながらも、何とか倒れずに坂を下ってゆく。これなら何とかなるかなと後ろからついてゆく。実に気持ちがいい。防寒具が邪魔なほどで、ヘッドを外して外気を味わいながら森の中へ入ってゆく。スピードはそれほど速くはないが、ダートだと30キロでも80キロくらいに感じるから、体感スピードは実際のスピードより速く感じる。(photo by Linne)

犬橇の三頭立ての息荒らし 薫子

森の中は道幅が狭くなるが一本道である。重心を移動させながら、橇の操舵を体に覚えさせる。スピードが乗ると、バイクなどは曲がる時はハンドルを軽く曲がる方向とは逆に切って(いわゆる逆ハン)反対側にバイクは倒れようとする挙動を利用して操舵するのだが、橇にはハンドルがないので体重移動で橇を動かさなければならないが、これは体で瞬時に反応して橇の癖を覚えなければならない。しかし、スピードがそれほど出ていなくて道が広ければ逆らわずに犬たちの行く方へ体重を心持ち寄せてやればいい。(photo by Linne)

犬橇に膝やはらかく立ちにけり りん

直線道とはいえ、雪道で轍の凸凹もあるから、橇がジャンプすると道の肩に当たりそうになるので、つど体重移動で微調整をしなければならないから、結構運動になる。森の中の広野に出ると、パスカルさんからスローダウンの指示が出て、一旦止まり、再度カーブの注意を聞いて、森の中を横切って戻るコースに入る。

森を抜け、右折してから丘の上のロッジまでゆるやかなカーブを左に上るように一気に駆け上がるコースに出た。犬たちもゴールが近いと感じたのだろう、俄然最後の力を振り絞ってという感じでぐいぐいと橇を引く。わたくしも大君もGo!Go!Go!と掛け声を上げる。

最後の左カーブ、犬たちは懇親の力で左へ曲がる。橇は遠心力で膨らむ。大君左へふんばる、はずがエッ!?両手をスーパーマンのように空へ伸ばしてそのままびょ~んと右方向へジャーンプ!わたくしの目の前を飛んでいっちまっただ。着雪10.0!!!と高々と得点表を掲げたいほどの見事な雪原へのダイブだった。大君の犬たちは軽くなったので一目散に走ってゆく。パスカルさんが止めてくれたが、なるほど雪が積もらないと犬橇が出来ないというパスカルさんのこだわりがわかった。大丈夫かと駆け寄ると、ふわあっとして気持ち良かったあ、って、ああた、もう少し雪が少なけりゃツンドラに突き刺さってたよ、百舌の贄の蛙みたいに、アッという形で手を広げて。

大君の犬たちは道の途中で止まって、あきれて走る気力が失せたのか大君が乗っても動こうとしないので、降りて一緒に走りなさいとパスカルさんに言われて、大君はしばらく犬と走ってエイヤッと飛び乗り無事滑り出した。我がハスキーたちはわたくしを見上げて走ろうよと吼えるが、彼らの力を全開したいので、しばらく距離が広がるまで、大君が坂を上って行くのを見守り、これだけ距離が広がればいいかと、Go!と声を掛けて一緒に全速力で走り出す。犬たちは逆毛を立てて猛然と走り出し、トップスピードにギアが入ったところで飛び乗り、一気に坂を上る。うひょ~、これぞ犬橇の醍醐味という走り。離れていた大君にぐんぐん追いつき追い抜こうかという勢いに腰を落としてエンジンブレーキをかけてゴールイン!(photo by Linne)

橇犬よ吼えろ雪蹴れ風を切れ 猫髭

犬たちのハーネスを外し、犬小屋へつなぐとパスカルさんが犬たちに御褒美の餌を与えて回り、ロッジに戻ると、大君が、犬橇ってこんなに体使うとは思わなかった暑い暑いとのたまうので、空飛んだりするのは姫ぐらいだと思いながら(実は森に入った途端、犬が曲がろうとする方向と反対に体を傾けたので橇が真っ直ぐ雪の壁に激突して立ち往生して犬ども疲労困憊)、脱衣を手伝うと、靴下を三枚重ね着していたのは知っていたが、ホッカイロも三枚貼り付けていて、真夏の我慢大会か。いやはや。

パスカルさんは紅茶を淹れてくれて、ショートコースだったからと45$にしてくれた。何て良心的なんだ、明日雪が降ったらロングコースを走りたいと言うと、中の君も走りたいと言う。大君は?あたしは空飛んで満足したからいいわ。パスカルさんも雪が降ればOKとのこと。りんさんが大君の買い物に付き合うから二人で楽しんでと言う。また大君タオル買うの?

時間も早いので、Alaska Raw Furの店に立ち寄る。毛皮の直売所である。覗くと、まあ、ミンクからテンからお頭つきで、ずらあっとぶら下がっている。Furで編んだセーターは信じられないほど暖かくて一生もんだというが、値段も15万円から20万円する。多分、これでも直売場なので安いのだろうが、とても俳人風情の買えるお値段ではない。それに日本の寒さではFurのセーターもその真価を発揮出来まい。マイナス30℃を越える国だからこそで、羽毛のような手触りだけ楽しんできた。


まだ暗くなるまでは時間があるので、りんさんがフェアバンクスに来たら、ここは是非見てほしいって言われてるのと丘の上を指す。現代的な建物が建っている。アラスカ大学の博物館で、エスキモーの民族衣装やアートの展示品が沢山あるという。やはりアラスカの歴史とエスキモーには敬意を表さなければ罰があたるだろう。入口に車をつけると、チェナ温泉で車のエンジンのヒーターをつけたように、ここでも車の先のプラグと結ぶ。

アンカレッジ空港に着くと白熊さんの剥製が迎えてくれるが、アラスカ大学はというと、いましたグリズリー。で、で、でけえ~。日本の羆がぬいぐるみに思えるほど。おっかねえから後ろから。


博物館だけあって、アラスカの歴史やオーロラや自然など見所は沢山あるが、わたくしが惹きつけられたのはエスキモーの衣装だった。特にシャーマンの衣装がシンプルで美しく魅力的だった。冒頭の写真がそうである。その前の靴も美しかった。祭のダンスに使われる靴だが、このシャーマンの衣装と合わせると、とてもよく似合う。よく見ると靴には六弁の花があしらわれており、刺繍や手袋やブローチにもこの花が頻繁に見られる。りんさんが、エスキモーの愛した花で、その所以でアラスカの州花にもなっている「勿忘草(わすれなぐさ)」だと教えてくれた。英語の名前はForget-me-not.「わたしを忘れないで」とは、何という美しくも切ない名前だろう。そう言えば、フェアバンクス行最終便で深夜に着いたときにも空港の壁にこの花が描かれていた。


フェアバンクス行最終便Forget-me-not 猫髭

帰りしなに、フレッドマイヤーで、新鮮な魚介類が入荷した頃だと思い出して、大きなキング・クラブの脚とスティーマー・クラムというアサリほどの大きさの蛤を沢山買って帰る。アサリの酒蒸のように、白ワインでニンニクの微塵切りと一緒に蒸して食べると、いくらでも食べられるのである。

着膨れてキングクラブの脚抱へ 千鶴羽


【予告】
6日目(金) オーロラ宴会。


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