2010-06-20

林田紀音夫全句集拾読 120 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
120




野口 裕



燦と日が降る草城はここにあり
泥の暮れ方息重く人混みにまぎれ
竹藪を淡い日わたり襤褸照る

昭和四十三年、未発表句。未発表句の右肩に前書きのある場合がある。ここでは二句目と三句目の間に、「草城十七回忌」が挟まれている。句帳に整然と句を書き並べるとは限らないので、句の位置と前書きの位置とが離れたか。二句目三句目ではなく、この前書きは一句目にふさわしい。

句として取るとすれば三句目だろう。「草城十七回忌」の前書きで読むとすれば、一句目と三句目を隣接させたいところで、二句目が邪魔となる。思いつくままに書いている句帳ならではの混乱だろう。

 

日常の鎖が硬い夜空に鳴る

昭和四十三年、未発表句。同年、海程発表句に、「硬い夜空の藻となり瞼濡れてくる」 。句集には入っていない。「日常の鎖」が練れていない、と見た上での改作だろうが、「瞼濡れてくる」の感傷よりは当方の好み。

 

くらがりに手が生えどれも火薬掴み

昭和四十三年、未発表句。紀音夫には珍しい超現実的な景が現出する。


翅たたむ新聞とみに黒枠殖え

昭和四十三年、未発表句。新聞あるいは新聞紙を、飛ぶものとして扱う句はこの頃よく出てくる。「黒枠殖え」は錯覚だろうが、錯覚するほどに死亡広告に目を奪われる作者がいる。

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