【週俳5月の俳句を読む】
〜なーんだ? とつける …… 上田信治
蒲の穂のつぎつぎ光り陣痛来 柴田千晶
性と痛みのドラマを、憑依と言いたくなるような直接性において描く作者。今回の一連、むしろ、ドラマチックなものと語り手に距離があり、その距離が審美的。
陣痛は、頭に閃光が飛ぶほど痛いよ、と、言えば実も蓋もないことが、蒲の穂を渡る光(が近づいてくる)ことに喩えられていて、因幡の白兎とかも連想していいんでしょうか、Mっぽく美しいかな、と。
バスタブに旧約聖書緑の夜
タブタブと水がたたえられた浴槽に、原罪の書をぽちゃん、語り手は、それに身をひたす寸前、鬱勃たる「緑の夜」をうけとめつつ一体化しつつ・・・と、いわゆる「女生徒」もののような道具立てで、清潔です。
母と行き父と戻りし遠花火 西澤みず季
「いはゆる贋の記憶」というふうに読みました。
そんな不思議な記憶が残るような、子供の心には理解できない、ある家族の状態があった・・・のかもしれない、あったんだったりしてね、と。
あるいはこれは、きっと「なぞなぞ」なんでしょう。うしろに「〜なーんだ?」と、つける。
躙り口より二輪草を招き入れ 渡辺誠一郎
同じ作者の〈昼寝の首が伸び水車回り出す〉に「〜なーんだ?」とつけると、水木しげる的民俗学的幻想の世界に入り込むこと、が答になる。
掲句の答は、なにかをかわいいものを、無意識のレベルにおいて許す、ということでしょうか。それは、可憐な花のようであり、二輪車が植物化したもののようでもあり、呼べば自分で入って来る(やはり妖怪のたぐいかも知れない)。
緑雨かな白き鸚鵡に迎へられ 榎本 享
つまり、そこは異界です、ということになるのだが、相手が鸚鵡なだけに、次の瞬間、だれのセリフを棒読みしてくれるのか、という、すてきなスリルがある。
花どきの空の冷たさメダルにあり 渋川京子
え、オリンピックのメダル? ゲームセンターのメダル? なんのメダル? と聞き返してしまって、いや、文脈無しではなんのメダルだか分からないのが、メダルの本意というものかと思うと、手にしたメダルがあらためてひんやり。
■柴田千晶 ダブルベッド 10句 ≫読む
■西澤みず季 遠花火 10句 ≫ 読む
■榎本 享 緑 雨 10句 ≫読む
■渡辺誠一郎 二輪草 10句 ≫ 読む
■渋川京子 遠きてのひら 10句 ≫読む
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2010-06-06
【週俳5月の俳句を読む】上田信治
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