2010-07-04

テキスト版・炭太祇100句抄

テキスト版・炭太祇100句抄 西村麒麟選


目を明けて聞て居るなり四方の春

年玉や利かぬ薬の医三代

春駒や男顔なる女の子

春駒やよい子育てし小屋の者

羽子つくや世ごころ知らぬ大またげ

な折そと折てくれけり園の梅

東風吹くと語りもぞ行く主と従者

情けなふ蛤乾く余寒かな

里の子や髪に結なす春の草

引寄せて折る手をぬける柳かな

起き起きに蒟蒻もらふ彼岸哉

海の鳴る南やおぼろ朧月

島原へ愛宕もどりやおぼろ月

欺いて行きぬけ寺やおぼろ月

耕すやむかし右京の土の艶

山葵ありて俗ならしめず辛き物

声真似る小者をかしや猫の恋

草をはむ胸安からじ猫の恋

春の日や午時(ひる)も門掃く人心

遅き日を見るや眼鏡をかけながら

蚕飼ふ女やふるき身だしなみ

小一月つつじ売り来る女かな

やぶ入や琴かき鳴す親の前

花守のあづかり船や岸の月

大工まづあそんで見せつ春日影

不自由なる手で候よ花のもと

ふらここの会釈こぼるるや高みより

ふり向けば灯とぼす関や夕霞

山独活に木賃の飯のわすられぬ

朝風呂はけふの桜の機嫌かな

塵はみな桜なりけり寺の暮

死なれたを留守と思ふや花盛

やぶ入の寝るやひとりの親の側

長閑さに無沙汰の神社回りけり

桃ありてますます白し雛の顔

春の夜や女をおどす作りごと

山吹や葉に花に葉に花に葉に

人追うて蜂もどりけり花の上

行く春や旅へ出て居る友の数

物堅き老の化粧やころもがへ

行く女袷着なすや憎きまで

能く答ふ若侍や青すだれ

盗まれし牡丹に逢へり明る年

蚊屋に居て戸をさす腰を誉めにけり

蚊屋くぐる今更老が不調法

蚊屋くぐる女は髪に罪深し

蚊屋つるや夜学を好む真裸

切る人やうけとる人や燕子花

麦秋や馬に出て行く馬鹿息子

盗人に出会ふ狐や瓜ばたけ

書きすてし歌も腰折れ団かな

風呂敷につつむに余る団かな

夜を寝ぬと見ゆる歩みや蝸牛

めでたきも女は髪のあつさ哉

病んで死ぬ人を感じる暑さかな

まづいけて返事書くなり蓮のもと

かたびらのそこら縮めて昼寝かな

橋落ちて人岸にあり夏の月

涼しさのめでたかりけり今朝の秋

初秋や障子さす夜とささぬ夜と

勝逃の旅人あやしや辻相撲

つる草や蔓の先なる秋の風

行く程に都の塔や秋の空

南無薬師薬の事もきく桔梗

送り火や顔覗きあふ川むかひ

二里といひ一里ともいふ花野哉

静かなる水や蜻蛉の尾に打つも

秋さびしおぼえたる句を皆申す

身の秋やあつ燗好む胸赤し

名月や君かねてより寝ぬ病

後の月庭に化物つくりけり

雪ふれば鹿のよる戸やきりぎりす

石榴くふ女かしこうほどきけり

くはずとも石榴興ある形かな

寝よといふ寝覚の夫や小夜砧

茄子売る揚屋が門やあきの雨

空遠く声あはせ行く小鳥かな

新米のもたるる腹や穀潰し

どうあろとまづ新米にうまし国

薬掘蝮も提げてもどりけり

永き夜を半分酒に遣ひけり

長き夜や夢想さらりと忘れける

寝て起きて長き夜にすむひとり哉

行く秋や抱けば身にそふ膝頭

玄関にてお傘と申す時雨かな

盗人に鐘つく寺や冬木立

冬枯や雀のありく戸桶の中

なき妻の名にあふ下女や冬籠

僧にする子を膝元や冬ごもり

いつまでも女嫌ひぞ冬ごもり

それぞれの星あらはるる寒さ哉

足が出て夢も短き蒲団かな

死ぬやうに人は云ふなりふくと汁

鰒売に食ふべき顔と見られけり

見返るやいまは互に雪の人

うつくしき日和になりぬ雪のうへ

駕を出て寒月高し己が門

大名に酒の友あり年忘

怖(おど)すなり年暮るるよとうしろから

宝船わけの聞えぬ寝言かな

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