2010-07-18

林田紀音夫全句集拾読 124 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
124





野口 裕



流血のガラスの罅が身に走る

昭和四十四年、未発表句。昭和四十五年、「海程」発表句に同一句がある。句集には入っていない。

同種の発想句に、昭和四十四年「海程」の、「黒の警官殖える破片のガラスの中」(第二句集収録)、同年の未発表句には、「風の一夜の黒おびてはびこる警官」がある。一年後に、この句を発表したと言うことは、「黒の警官…」が事象を我が身に引きつけて受けて止めていない、との反省が紀音夫の内にあったと想像される。だが、句集収録に際しては「黒の警官…」を採用した。作者の逡巡を目の当たりにするようだ。


銃口がむき雨の音身にこもる

昭和四十四年、未発表句。

ふと、第二句集のタイトル、「幻燈」が気になった。このタイトルの元になったと思われる句は、句集の昭和四十二年から昭和四十五年の項「風痕」にある、「幻燈の銃口の夜が身を溢れる」と考えられる。原型句は、昭和四十五年「海程」発表の、「幻燈の銃眼燃えて背後にある」。原型句では、作者と幻燈の位置関係を考えると、スクリーンに投影された設計図などを見ている会議室の景になる。吾子俳句であれば、父たる作者の位置は幻燈機を操作しているところにあるはずだ。

原型句を句集収録句にあるように作り替え、吾子俳句のちりばめられている句群の中に入れると、過去の戦争と我が子の存在する現在の平和とを同時に感受しているような、紀音夫が得意としている句に変貌する。

この推察を、さらに裏付けるような句が、この年代の未発表句の中に存在しないかと、見回してみたが、あまりない。最も近いのが上揚句だった。ただし、この句は、句を作り替え作り替えして、ついに「幻燈」の一語を消し去った句とも見える。昭和四十四年と、昭和四十五年の一年の差が、この見方を否定してくれるようにも見えるが、未発表句と発表句の一年の差は、あってないようなもの。未発表句、「海程」発表句、句集収録句の、三句が関連しあっていることは確かだろうが。

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