2010-07-11

【週俳6月の俳句を読む】高柳克弘

【週俳6月の俳句を読む】
生々しい手触り …… 高柳克弘


ひやしあめをんなあるじの狐がほ  鈴木不意

「狐」の一語を除き、ひらがな表記で統一されているのが特徴的だ。虚であるはずの「狐」が現実で、実である「ひやしあめ」や「をんなあるじ」が架空のものであるかのように見えてくる。そのような逆転によって、狐か人かわからない女主の怪しさを演出しているのだ。
「ひやしあめ」を題材にしながら、懐古趣味に終始することなく、独特の艶美な物語空間を展開している点に惹かれた。



草取の帽子のかたち見えかくれ  五十嵐義知

帽子が草陰でちらちらしている、という把握はありふれているが、「帽子のかたち」と言い取ったところに巧みさがある。「エピソード」から「物」への転換がはかられたことで、俳句的表現としての強度が増しているのだ。



文届くローズマリーの咲く朝  四ツ谷 龍

日本で古くから使われるゆかしい「文」の呼称と、地中海沿岸原産の「ローズマリー」との、不思議な出会いの一句。「ローズマリー」は他の花と置き換えられるなどと批判するのは野暮だろう。表現における必然の欠如が、作者における必然を暗示し、一句に生々しい手触りを与える場合もある。この句の場合、文の差出人と、受け取り手とが背景にいるのだが、「ローズマリー」の花の持っている意味は、二人にしかわからない。そのことが、二人の間柄の親密さを証し立てている。「ローズマリー」の可憐でどこか神秘的なたたずまいもあいまって、「文」はこの世ならぬところから舞いこんだものかもしれない、と思わせるところがある。



鈴木不意  はじめの 10句 ≫読む
五十嵐義知  はつなつ 10句 
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茅根知子  あくる日の 10句 
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松野苑子  象の化石 10句 
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四ツ谷龍  掌中 10句 
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中本真人  ダービー 10句 ≫読む
矢野風狂子  撃ち抜かれろ、この雨粒に! 10句 ≫読む
灌木  五彩 10句 ≫読む

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