【週俳6月の俳句を読む】
名付けるということ …… 浜いぶき
水流のとどまるところ夏蝶来 五十嵐義知
涼やかで美しい景。山や森のなかの小川の傍などを歩いているのだろう、ひとところ、傾斜がゆるやかになって水流がとどまっている場所に、目に鮮やかな夏蝶が舞ってくる。
蝶の飛びかたというのは、ちらちらとこちらの目を眩ませるようで、肉眼では細かな動きを捉えられないほどに自在で繊細である。夏の川もまた、日を受けてきらきら、ちらちらと水面を瞬かす(「夏の川ゴールデンタイムちらちらす」こしのゆみこ)。
そのふたつの「ちらちら」が、しかし、相殺されない場所。すなわち水流がとどまり、川のひかりが少しだけ鈍くなったところ。訪れた夏蝶の画は、そこであざやかに立ち上がる。
小さな夏休みがそこにあるような句。
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草笛となるまで草を替へにけり 中本真人
若者何人かで草笛を吹こうと草を手に取ると、最初に吹いた人というのがやはりその場のヒーローとなる。年輩の方がいらして、スマートに吹いてみせてくれたときは、尊敬のまなざしが集まりもする。
掲句では、吹いている人の年齢は分からないけれど、おそらくまだあまり吹くのが得意ではないのだろう。子どもなのかも知れない。でも、吹くことに情熱を傾けている、そんな人物像がみえてくる。
千切り取った段階では、それはただの草である。しかし音が出たときにはじめて、そのただの草は「草笛」という名前を持つ。当たり前のことのようだけれど、名付けるということの趣がそこにあり、はっとする。
晴れて草笛となったら、またその草笛を捨てて、新しい草を「草笛となるまで」替えるのだろう。一句を読み終えて、また始めへと戻るような、ループしてゆくイメージが心愉しい句だと感じた。
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2010-07-11
【週俳6月の俳句を読む】浜いぶき
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