林田紀音夫全句集拾読 138
野口 裕
鳥獣の彩に殺到する雪片
昭和四十八年、未発表句。白に埋もれようとする色彩の数々。凄惨なリンチのイメージが、音のない世界で展開する。
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鶏が踏み湿葬の傾く土
昭和四十八年、未発表句。昭和四十五年に自選既発表句集『林田紀音夫句集』があるが、第二句集『幻燈』は昭和五十年刊行と年譜にある。選句対象は前年の昭和四十七年まで。多分この頃、自選に取りかかっている時期ではないだろうか。
第二句集の中でも取り上げられることの多い、「いつか星ぞら屈葬の他は許されず」が、この時期にどの程度取り上げられていたのかは不明だが、紀音夫が繰り返し自句を味わっていたのは想像に難くない。
葬儀が終われば、屈葬うんぬんに関わりなく見えているのは、墳墓をなす土塊ばかり。屍体はじめじめと土中で腐食してゆくばかりだろうという思いが、「湿葬」なる語を生み出した。その土を踏む鶏の脚は、紀音夫の視線と連結する。
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雨樋が鳴る冥府より鬼が来て
昭和四十八年、未発表句。昭和四十九年「海程」に、「雨傘のひとり冥府へ歩き出す」。
雨樋は、雨の好きな紀音夫にとっても珍しい素材。しかし発表句は愛用の雨傘に取って代わった。雨樋では、視線の関係からどうしても傍観者的な感想になる。鬼がやや説明不足になっているところも気になったのだろう。だが、説明されない鬼が言いしれぬ魔力を秘めているようにも受け取れ、発表句にはない表情を見せる。
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燈明のそびら雛濃くなる暗部
狛犬に裾ぼろぼろの雲暮れる
昭和四十八年、未発表句。離れたところにある二句だが、この二句から第一句集『風喰』にある、「狛犬にそびらの虚空のぞかるる」が、思い出される。
そびらは、漢字にすると背平。背中とか背後ぐらいの意味だろう。視点中央の物体ではなく、視点の周辺にある景が作者の心象を表す。年経て、似た構造の句が現れることから、紀音夫の内部に組み込まれた発想パターンのひとつと考えてよい。
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2010-10-24
林田紀音夫全句集拾読138 野口裕
Posted by wh at 0:05
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