【週俳9月の俳句を読む】
石地まゆみ 自分の世界を紡ぐもの
指につく古書のにほひや夜の秋 今村恵子
古書の匂いは、何とも郷愁を誘う。あの匂いがキライ!消したい!という人もいるそうだが(ネットで古本の匂い取りの方法も載っているとか)、そのしみついた匂いは、手にとった本の人生(ならぬ本生?)がどんなものだったか、などと、本のタイトルとともに、持っていた人の人生まで想像させる。漢字で「匂い」 と書くと嫌いなの?って思うけれど、ひらがなで「にほひ」と書くと、この人、古書好きよね?と思ってしまう。どっぷりと秋に入る前、まだ暑さの残る中の 「夜の秋」の季節は、ふっとそんな「にほひ」に敏感になる。
「円柱は抱きつきやすし秋の風」「音たてて落ちてゆく日や吾亦紅」など、静かな景を静かに詠んでいる方だ。
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天高し油絵の具を塗り込める 宮本佳世乃
私は油絵をしたことはないのだが、あの執拗なまでに塗り込める行為は、どういう感情なのだろう。見える景を、描きたい世界へと紡ぐために、言葉を拾って いく作業とも似ているのだろうか。空は澄み、ひろびろと高い。透明な空気感の中で、油絵具の独特な匂いまでもが伝わってくる。
「颱風裡波のかたちの紙粘土」「水澄むやふたつの言葉だけ持つて」。絵の具と、紙粘土と、言葉と、みんな、自分の世界を紡ぐもの。
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おしろい花待つといふこと夢多き 下村志津子
「待つといふこと夢多き」というあまやかな言葉をすらっと使えてうらやましい。どのような「待つ」、かは知らないけれど。「おしろい花」の咲く夕暮れ時は、しずかな時間。だからこそ、夢を語れる。白と赤の、余計な色を持たない花だからこそ、美しい。
「りんだうや信濃は霧の似合ふ国」「朝露の瑠璃散りばめて苔筵」も、色の鮮やかさをすっきりと詠んで好ましい。
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この枯野人を喰らふと翁の語 すずきみのる
桃太郎密かに桃の実を食し
竹の秋雀の舌はいらぬかえ
御伽噺を、こんなふうに読ませてもらえて、楽しかった。民俗学好きの私は、御伽噺も好き。そして、御伽噺の、小さいころには分からなかった怖ろしさを知っ て、びっくりしたのだけれど、俳句にすると、御伽噺の本意ではない想像の怖ろしさ、なども表現できるのだ。言葉は自由だし、想像するのも勝手だから。これらの俳句から、新たな御伽噺が作れそうで。
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妻俳句のおふたり。
男性の俳句には、妻を詠んだ句は結構あるようだ。私の句友もしかりである。草城と草田男の「ミヤコホテル論争」なんかもあるけれど(「ミヤコホテル」は フィクションだったそうだが)、なんだか、生活の一部を見せられて、残念だけれど「ふーん・・・」というふうにしか、私には取れない。で、この呟きに、季語がいるの?なんて。
ちなみに、最近妻俳句はよく見かけるのだけれど、「夫」俳句は、こんなふうに愛情を持って書かれた句に、あまりお目にかからない(年配の方の思いやり的な 俳句は見るけど)。女性は、「恋」をしているときは詠みたくなるけど、結婚すると、「詩にならない・・・」なんて思うのだろうか。私も結婚してた時、だんなさまの句は、ほとんど作らなかったなあ、などと思うのだった。
■今村恵子 水の構造式 10句 ≫読む
■宮本佳世乃 色鳥 10句 ≫読む
■下村志津子 隠し鏡 10句 ≫読む
■杉原祐之 新婚さん ≫10句
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2010-10-10
【週俳9月の俳句を読む】石地まゆみ
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