2010-11-14

林田紀音夫全句集拾読141 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
141




野口 裕



暫く晴れ形代の雲流される

昭和四十八年、未発表句。昭和四十九年「海程」に、「形代の鈴なりの揺れ夕べの梢」。昭和五十年「海程」と昭和五十一年「花曜」に、「形代の一片雲へ歩かせる」。形代という言葉にこだわって、あれこれと句を推敲していたことがしのばれる。形代の受動的な形態に触発されるものがあったのだろう。「流される」という受動形の措辞は、最終的に「歩かせる」という使役で決着させた。他の形代の句は、

 形代の水の行方も墓碑ばかり

 形代の白まざまざと夜に描く(以上、昭和四十八年未発表句)

 形代の流れの幅を水満す

 形代の凧しばらくは地に遊ぶ

 形代を雲の流れの中に見る(以上、昭和四十九年未発表句)

はるか後年、平成に入ってから、形代の句があるがこの時点では昭和五十一年の発表句を最後とする。

 

黄砂に日傾く銃の重さ還り

昭和四十八年、未発表句。記憶の甦るきっかけが黄砂という季語。紀音夫にしては珍しい句になった。

 
雨の糸のあやつり人形銃を抱く

昭和四十八年、未発表句。雨から連想を働かせたような書き方がされていて、次々と紡ぎ出される景の変化に興が湧く。雨が誘い出した回想。誰かに操られるように銃を抱いている自身の姿がある。だが、銃を抱いている操り人形を見て、その糸が雨のように見えたということかもしれない。昭和五十年「海程」と「花曜」に、「雨の糸絡み地妖の刻移る」。

 
雷鳴の手にブランデーながく余る

昭和四十八年、未発表句。第二句集に、「幽界へ氷片のこすウイスキー」がある。その変奏を試みたのだろう。

福田基が巻末解説でこの句を取り上げているが、いかんせん紀音夫の句には酒を愛する気分があまりない。気に入ったアイテムを繰り返し使う傾向の強い紀音夫句にしては頻度も少ない。第一句集に、「葬送の酒に手を出し縁消ゆ」があるが、昭和四十年代にはこうした雰囲気の句はもう作りにくい。アルコールは、紀音夫にとって展開しにくい素材に変貌してしまった。

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