2010-11-14

笑い殺す気ですか? 関悦史「ゴルディアスの結び目」

笑い殺す気ですか? 関悦史「ゴルディアスの結び目」

小林苑を



風邪はぐずぐすと居座り、日は過ぎる。句集を読んで感想を書こうと思うが、集中力が足りない。そこで、週刊俳句・落選展の話題作「ゴルディアスの結び目」を読む。

『新撰21』でも爆発していたヒューモア(この作者の場合ユーモアより似合う気がする)が大爆発している。もう作り方とか、全然気にしないふりというか、言い たいことが溢れ出てしまって気にする暇がないような大洪水型というか、わたしはひたすら笑う。く、苦しい。この句群、笑い殺すための呪文なのではあるまいか。

それから、不安になる。とんでもなく物知らずなわたしですから、博識な作者の意図を全然わかっていないのかもしれない。タイトルからして、ワケあり気なのでして、ほら、解いてごらんよと言われている気もする。

でも、いいや。ほら、俳句は差しだされたら読み手のものだ。というわけで、アレキサンダーのつもりになるドン・キホーテ的感想。パソコンの検索機能に感謝。


  メルルーサの笑ふ市場をふと見たり

初っ端から、メルルーサをメドゥーサだと思い込んだ私は、ギリシャの市場なんかを想像した。しかし、なんか違うかもというので「メルルーサ・神話」で検索。そしたら、魚だと言うことがわかった。ああ、あれか。しかし、天の助けとでもいいますか、見た目が「ギリシャ神話のメドゥーサみたいな恐ろしさ」と書いてあるではないか。句のイメージは損なわれない。そもそも、と勝手にわたしは思う。同音異義とか類音意義とかは言葉の素晴らしさのひとつだ。

前置きが長くなったけど、市場というのは生臭い場所である。とかいろいろなことは置いておいて、ふと見ると、メドゥーサみたいな恐ろしい怪しい魚が笑った (ように感じた)、こういう感覚はよくある。ところが、この句は違う。「市場」をふと見たと書いてある。こうなると、一匹がニヤリもいいが、山と売られるメルルーサがどっと笑っているのかもしれない。これは相当怖ろしい。これは非現実への入口、実は歩いている人間も人間ではなく…。

  プレハブを松の影這ふ淑気かな

「淑気・松」対「プレハブ・影這ふ」。いや、もう。

  エリツィン亡しゴルバチョフ在り雲に鳥

だ、ダメだ。笑ってしまう。

  ぶらんこは海底歩くかたちかな

わかったから。はい、可笑しいです。海底○○なんで番組で見る人々のへっぴり腰のようなぶらんこ。ロマンチックじゃないけど、よりロマンチックなぶらんこ。

  バージェス生物群懐かしむ大干潟

カンブリア紀期に出現した生物の一群をバージェス動物群。ムツゴロウなんて目じゃないね。
http://www.geocities.jp/araki_dinoshop/list/burgess.htm

初めの数句で、これですから。

  フラクタルとは無数に如来蘖ゆる

フラクタル。下記参照。まんまです。「蘖ゆる」ってね、あなた。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%AB

  カツオノエボシのつもりで通るぞ幼女の前

カツオノエボシは「人にとって非常に危険な生物」なんだって。おじさんを見たら悪い人物と思えと教える世の中はほんとうに悲しい。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%84%E3%82%AA%E3%83%8E%E3%82%A8%E3%83%9C%E3%82%B7

  シュレディンガー音頭は夏を「Ψ(プサイ)にΦ(ファイ)

シュレディンガーの猫なら、まだわかる。音頭なんてもん俳句にして角川賞に応募する作者を思うだけで爆笑。
http://schrodinger.haun.org/

  小惑星ぶつからば地球花火かな

もう、バカバカしさも極まれり…怖ッ。

  網にかかる蛸とゴルディアスの結び目と

正解率百パーセントね。

  苦瓜の疣の全個を記憶せよ

お疲れみたいですけど。

  ぬかご飯エロマンガ島が思はれて

ぬかご飯の質感=エロマンガ島、やーだ。

  数千の虫が知らせに来てゐたる

「虫の知らせ」が数千て、もう凄いたいへん。どこに耳を傾けていいかわかんないじゃないか。

  微恙われ長ねぎを持ち歌ひ踊る

見たくないから。

  長ねぎを仕舞つて水を飲み寝ねき

おやすみなさい。

  投光やダイオウグソクムシ蝟集し鯨が骨

面倒になってきたので、映像だけ。
http://www.monomiru.com/2007/09/post_220.html

「睡蓮や貨幣は時の外にある」「管理地に枯蔓二十一世紀」とか、説明的でつまんなかった句も少々あるが、巻頭句のことを長ーく書いたように、怪奇な市場をふと見たときから、あやかしの世界に紛れ込ませてくれる。物知りになれて、この世だか、宇宙だか、非現実世界だかの、「吾」を取り巻く摩訶不思議に遊べて、なんたっていろいろに笑えるのだ。

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