〔週俳11月の俳句を読む〕
茅根知子
「自分」が見える場所。
「ゲバラの忌」
明るうて泣きたくなりぬ十三夜 武藤紀子
最近、「泣くために見る映画」というのがある。掲句を読んで、それを思った。甘い。たまらなく甘い。しかし〈十三夜〉は、こんな甘さがぴったりである。十五夜では成り立たない、甘さ。十三夜は「泣いている私」を想像し、泣きたくなる。泣きたいと思えることは、甘く幸せである。
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「鎌 鼬」
先を行く人ふり返る秋の坂 柘植史子
〈秋の坂〉を、只管、上ってゆく二人がいる。引っ張り合う糸があるように、少し離れ、しかし決して見失うことなく。この坂の向こうに何があるのだろう。振り返った顔は光の中にある。本当に行っていいのか、と迷いながらも、あるいは、ついて行くしかない。秋の坂が、来し方行く末に思えて切ない。
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「冬の一日」
枯原はロッカーのごとしづかなり 山口優夢
「枯原にロッカーが置かれてある」というような発想はありがちかと思うが、掲句は、イメージの中で〈枯原〉と〈ロッカー〉を取り合わせ、新しい。下五の収め方も素直で外連味がなく、好感がもてる。両者の共通項〈しづか〉によって、荒涼としたモノトーンの風景が見えてくる。
■彌榮浩樹 昼の鞄 10句 ≫読む
■武藤紀子 ゲバラの忌 10句 ≫読む
■柘植史子 鎌 鼬 10句 ≫読む
■清水良郎 父の頭 10句 ≫読む
■近 恵 赤丸 10句 ≫読む
■久留島元 五十音図(抄) 10句 ≫読む
■山口優夢 冬の一日 10句 ≫読む
■寺澤一雄 秋 九十九句 ≫読む
■山口都茂女 泊まつてけ 10句 ≫読む
〔投句作品〕
■久乃代糸 肌ざわり ≫読む
■富沢巧巳 魚の粗をしゃぶる会が詠む ≫読む
■高橋透水 ぶらり・酉の市 ≫読む
■矢野風狂子 兎は逃げた ≫読む
■俳句飯 つくりばな ≫読む
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2010-12-12
〔週俳11月の俳句を読む〕茅根知子 「自分」が見える場所。
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