2010-12-19

林田紀音夫全句集拾読146 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
146





野口 裕



雨落ちてくる花文字を眼帯に

雨落ちてくる日曜の童女の笛

雨落ちてくるはかなさのにせあかしあ

雨ひたとくるはかなさのにせあかしあ

雨ひたひたと称名の夜につづく

昭和四十九年、未発表句。すべて同一頁の句。ちなみに、「雨の糸」も「雨更ける」も、同一頁。句の良し悪しを超越し、雨を通して現れてくる外界を必死に感じ取ろう、読み解こうとする紀音夫の姿勢が見て取れる。


コンクリートの箱のあけくれ空が減り

昭和四十九年、未発表句。町が都市に変貌してゆく。そのことへの感慨。軽い句だが、紀音夫らしい。

 

線香の点の火の夜を身に流す

昭和四十九年、未発表句。紀音夫らしい書法の句。情景を的確に描写することよりも、次へ次へと言葉を繰り出して、景を一瞬のうちに脳裡へ定着させる。

カメラのシャッタースピードを無限にし、懐中電灯などを振り回して撮影すると、写真には光の軌跡が帯状の模様が残る。脳裡の線香の火はもっと細くてしなやかな糸状の模様を描く。流すといいながら、身にまつわるようだ。


観音に出あう顔蒸しタオル中

昭和四十九年、未発表句。喫茶店のおしぼりで顔をぬぐっていると綺麗なウエイトレスに出あった、とも考えられるが、やはり散髪中のことだろう。髭を剃る段になって、担当者が代わるということはよくある。代わったのが、エライべっぴんさんだったようだ。「隅占めてうどんの箸を割り損ず」を書かしめた技量が、こんな風にも現れる。

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