〔週俳12月の俳句を読む〕
伸びてゆく
興梠 隆
短日や船に錨のひとつづつ 土肥あき子
錨をもつ船ですからボートのような小さな舟でもない。錨を二つ装備しているタンカーや客船のような大型船でもない。海岸沿いの駅を降りればどこにでもありそう、でも、なつかしい小さな漁港の景が見えてきます。
目の覚めるやうなレッドにして湯湯婆 上田信治
確かに赤いんだけど文字で「赤」と書いてみると、ちょっと違和感を感じる赤。あえて「レッド」と書くことで、鮮やかだけどちょっと毒々しくてケミカルな色がはっきり見えてきます。この句を読んで以来、ゆたんぽが特撮ロボット「レッドバロン」(わかるかなぁ)の顔に見えて仕方ありません。
綿雪や糸ひくものを食ひをれば 高橋博夫
朝の食卓。糸を引くものとは、納豆でしょうか、オクラでしょうか、とろろでしょうか。寝起きの頭を働かせずとも、かき回して、ご飯にかけて掻きこめる。いつしか視線と意識は窓外の雪へ。箸先の糸がどこまでも伸びていきそうです。
信濃には「信濃毎日」豊の秋 広渡敬雄
「信濃毎日」という紙名で決まりました。「信濃」という地名からイメージされる空間的な拡がりと「毎日」という言葉の時間的な拡がりが「豊の秋」によってさらに増幅されていくようです。
鼓笛隊見失うとき国境は冬 十月知人
軍隊の敵国への示威行為でしょうか。パレードが終わって、通りが急に人寂しくなったとき、鼓笛隊が帰って行った道を逆に辿れば国境線に至ることに改めて気づく。波郷の「冬日宙少女鼓隊の母となる日」、これは国境から離れた内地の句ですが、あわせて読んでも味わい深いと思いました。
■土肥あき子 雫 10句 ≫読む
■上田信治 レッド 10句 ≫読む
■高橋博夫 玄冬 10句 ≫読む
■広渡敬雄 山に雪 10句 ≫読む
■荒川倉庫 豚百五十句 ≫読む
■十月知人 聖家族 ≫読む
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