2011-01-23

林田紀音夫全句集拾読150 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
150




野口 裕



閉ざされて佛壇みなの顔映す

昭和四十九年、未発表句。佛壇が閉じられて、その佛壇にみんなの顔が映っている。その状況を、「閉ざされて」とつぶやくと、作者の視線が佛壇内部へと一気に入り込む。


佛壇をそびらの榾火忘れ行く

昭和四十九年、未発表句。佛壇を眺めるとも、佛壇を見つめるとも言い得るような、死者を思う時間が経過し、外界のその他の事象は消えて行く。榾火という季語の使用が珍しい。

 

絵馬の朱が揺れて一月一日曇る

昭和五十年、未発表句。あまり祝意のない正月の句。わずかな朱色にそれがあるか。

今までいろいろあった。これからもいろいろあるだろう。時計板の刻み目のように、一月一日がある。


手鏡に青ひそひそと海の声

昭和五十年、未発表句。紀音夫自身が手鏡を携行するとは考えにくいので、同行のだれかの手鏡を脇から覗いたとき、海が見えたのだろう。煌めく波がひそひそと話す内容は、戦時体験か戦後の生活難か。

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