2011-01-30

林田紀音夫全句集拾読151 野口裕


林田紀音夫
全句集拾読
151





野口 裕



はるばると雲往き凧の糸余る

溶暗を海に及ぼし火の粉翔ぶ

昭和五十年、未発表句。一句目は素直に季語を使用し、紀音夫といえども作句の基本呼吸がこの辺りかと思わせる。二句目は、句の並びから正月行事の「とんど」に由来すると思われる句。季語の消し方の例。昭和五十年「花曜」に、「昇天の火の粉の日暮れ且つ念誦」がある。


雪片のさざめきハープ伴って

雪降り積もり遠くの男の女の灯

昭和五十年、未発表句。外界描写に作中主体の感情を込めるのが紀音夫の行き方だが、この二句はそれとは対照的な作り。たぶん、「さざめき」や「男女」に彼なりの思い入れがあるのだろうが、それを感じ取りにくい作りになってしまった、ということだろう。

 

軍港 へ雪遡り切に降る

昭和五十年、未発表句。見ているのはしきりと降る雪。軍港は幻。だが、幻の方に実感があるという逆説。

 

野を焼いた双手を浸し水過ぎる

潮騒に野焼のあとの星を生む

耳鳴りの晩年遠く野火のこる

昭和五十年、未発表句。野火三句。昭和五十一年「花曜」に、「てのひらを水過ぎて山暗くなる」。この句の「山暗くなる」が、わかりにくく若干の疑問があった。野火三句に突き当たり、ああそうかと納得する。三句から一句を選び出し、野火を消すために「双手→てのひら」への改変をほどこすなど、無季の句を成立させるための手順として良い参考例になる。

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